メタモルフォーゼ・プログラム
「なっぴ、朝ごはんよ。はやくおりてきなさい」
いつもの様にお母さんが、階段の下から彼女を呼んだ。
「あれって夢だったのかしら」
昨日の事は全部夢、そうに違いない。虹色テントウが彼女に話したことは、到底信じられなかった。だが、「テンテン」の言う通り、彼女を何者かが狙っている事は、間違いない様だった。授業中、「テンテン」は覚醒したばかりの彼女のシナプスに、せっせとコマンドをコピーしていた。
七つのボタン↑赤橙黄緑青藍紫は以下を召還し着装する。
赤 (レッド) 目…ヤンマ・みずすまし
橙 (オレンジ) 耳…蝉・こおろぎ
黄 (イエロー) 口…あげは・はんみょう
緑 (グリーン) 鼻…ミツバチ・やままゆ
青 (ブルー) 足…バッタ・ゲンゴロウ
藍 (インディゴ) 手…けら・カマキリ・カミキリ
紫 (バイオレット) 皮膚…カナブン・甲虫・やご
↓以上初期コマンド
メタモルフォーゼ起動コマンドEX↑
「メタモルフォーゼ、ブルー、召還 (コマンド・トゥ・カム・ブルー)。
着装、バッタ(セット・アップ・グラス・ホッパー) 。」
↓以上メタモルフォーゼ起動コマンドEX
デリート・ガン転送コマンド↑
「アイ・トランスファー・イット・トウ・ザ・キングダム」
↓以上デリート・ガン転送コマンド……
「テンテン」は、「メタモルフォーゼ・プログラム」のコマンドを、彼女の覚醒したシナプスに次々とコピーしていった。
「このプログラムをなっぴに使いこなせるかしら。ちょっと不安だわ」
「テンテン」が召還出来るのは、女王から預かった赤(ヤンマの目)、橙(蝉の耳)、青(バッタの足)そして紫(カナブンの皮膚)の基本セットだ。彼女が「デリート・ガン」で「ブラック・ソルジャー」を王国に転送すると、転送された昆虫の特殊能力がひとつ、セットアップ出来るようになる。
「一刻も早く (藍) インディゴの能力が必要だわね」
「テンテン」は王国がまだ平和な頃、王国に伝わる「虹のしずく」を管理していた。たいていの昆虫は一・二年の寿命だが、長生きする昆虫たちのもつ、長寿のエキスを熟成したものが「虹のしずく」、王家のカブト族にだけ与えられるものだ。そのおかげで王国は次の王になるカブトを教育する時間を手に入れる事ができた。
そのころ「ラクレス」は「ブラック・ソルジャー」を使い、すでに王を亡き者にすると、卵たちを次々に始末した。長老のヒラタ大臣を追い出し、彼の配下のノコギリを次の大臣に任命した。そして「虹のしずく」を手に入れて、平和な王国を自分のものにしようとしている。ヒラタ大臣は「ラクレス」から「虹のしずく」を守るため、それを七色の結晶に変えると、「テンテン」の羽に封印したのだった。女王は今も王子がどこかで生きている事を信じている。女王が「テンテン」に持たせたのは「ブラック・ソルジャー」と戦える、唯一の力「メタモルフォーゼ・プログラム」だ。
「これで『メタモルフォーゼ・プログラム』のコピーは間に合ったわ、女王様に連絡しておきましょう」
王国に連絡するため、「テンテン」の羽の七色の星が順番に点滅をはじめた。
「女王様に何かあったのかしら……」
何度コールしても女王からの返答は無かった。その頃、女王はすでにノコギリ大臣たちに幽閉されていた。