ブルー・サファィア
「ところで『ブルー・サファイア』って、『虹のしずく』みたいな宝石かしら?」
なっぴは『パピィ』に尋ねた。今度は由美子が答えた。
「ううん、形は無いの。カブト国の妃だけに扱えるコマンドと同じよ」
「メタモルフォーゼ・プログラム……」
「カブト国では『メタモルフォーゼ・プログラム』そう呼んで伝えているの。『虹の村』では七つの『虹のしずく』に変えて守っているわ、エビネ国にも同じものがあるはずよ。遠い昔、王国の危機に立ち上がった勇者の力を、それぞれの国でずっと守り続けているの」
『パピィ』はかなり詳しい。だからこそフローラ国からカブト国の妃は選ばれていたのかも知れない。
「ブルー・サファイアを手にした時、王女が力を貸してくれるって一体どういうことなの?」
なっぴは聞き返した。
「ややこしいからねぇ……」
『パピィ』は説明につまった。『テンテン』が変わってなっぴに言った。
「今のなっぴと私は、小学三年生の女の子と『虹のしずく』を持つ『虹色テントウ』。由美子と『パピィ』はね、フローラ国の王女『フローラル・由美子』と『ヨミの棺』を持つ『空色シジミ』ってこと。『メタモルフォーゼ』をすると、なっぴは七歳年を取り、由美子は王国での年齢に戻るの。その時私はあなたの『コマンダー』として機能するけど、『パピィ』は休眠し、カブト国の王女が覚醒するのよ。あの棺にはね、肉体と精神を分離、独立させる力があるの。由美子と『パピィ』は元々はひとりってこと。そうでしょ『パピィ』?」
「その通り、付け加えるとカブト国の王女も続いて休眠してしまうから、コマンダーのようには機能しない、ううん必要ないの。『フローラル・由美子』には直接女王からコマンドを書き込まれているからね」
「だけど、あんなヤツらがあちこちで暴れたら、人間たちは……」
なっぴはそう思うとぞっとした。
「人間に危害を加えるのは『虹のしずく』を全て手にしなければ、まだまだ無理ね。でも『ラクレス』たちははどうやって『ガマギュラス』を人間界に送れたのかしら?」
由美子は、なっぴの不安を否定しながら、不思議に思ってつぶやいた。
『テンテン』は顔を少し曇らせた。思い当たるのは妹、『リンリン』しかいない。やがて、メタモルフォーゼの前に、由美子が眠らせた『たいすけ』を起こして、三人で高跳びの道具を片付けた。まっぷたつにされたバーも、大きな穴があいていた床も、いつの間にか元通りになっていた。
その夜、なっぴは『テンテン』に少しだけこう不満を言った。
「由美子はいいなぁ、私十七でも、まだあんなに『ぺったんこ』なのね……」




