表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なっぴの昆虫王国  作者: 黒瀬新吉
26/112

由美子、人間界へ

 「姫、姫……」

空色シジミは王女の耳元で必死に声をかけた。しかし今まさに、王女の命が消えようとしていた。

「これを使え」

『ダゴス』は迷う事も無く自分の一番小さな目玉をえぐり出し、空色シジミに渡した。彼女はそれが何かを知っていた。

「これは、『ヨミの棺』ではありませんか」

「まさしく、そうだ。もはや姫の意志はこの中に留まるしかない。お前がフローラ国の『ブルー・サファイヤ』を身につけたとき、姫は王国のためきっとお前に力を貸してくださる。お前の母とキングのお妃は、姉妹なのだからな……」


 空色シジミ、それが由美子の精、由美子の分身だ。そこまで言うと、『ダゴス』はコガネグモに命じて、姫の体を『ヨミの棺』に納めさせた。『ヨミの棺』は小さくなり、空色シジミの体に沈んでいく。その瞳が薄いブルーに輝いた。

「さあ早く城へ戻りそして旅支度を整えるのだ。『ハガネ』にはわしの技はすべて教えてある、もうコマンドスーツは仕上がっていることだろう。そうだチョウ族には武器があるまい、あれを持っていけ」

彼は洞窟の奥の泉の中の水グモに合図をおくった。水グモは泉の底から壺を持って上がって来た。その小さな壺には伝説の「インディゴ・ソード」が長い間封印されていたのだ。それを受け取ると空色シジミは一番長い、洞窟から森のはずれまで続くトンネルに入った。


「女王に早く伝えなければ……」

空色シジミの『パピィ』は、一度も振り返らずに抜け穴を飛んでいった。


 それからわずか三日後、今度のスズメバチは『黒の森』を通り過ぎ、フローラ国を襲ったのだ。しかも、B・ソルジャー『ピッカー』を先頭にして。

「殺せ殺せ、皆殺しだ。キールの仇を取れっ!」

弟の死を聞き、怒り狂った『ピッカー』はさらに凶暴になっていた。だが、新しく作られた地下道を使い、フローラから『黒の森』へとフローラの国民は既に避難していて城はもぬけの殻だ。

「おのれっ!また『ダゴス』か、どうしても邪魔するのなら仕方ない、クモ族どもを全て殺すまでよ。おい、行くぞ」

 城から飛び去った『ピッカー』が見えなくなった。壁の向こうの部屋で息を殺していた女王はやっと口を開いた。

「さあ、今のうちに人間界へ行きなさい。『テンテン』と協力して王国を救うのです。フローラ国の王女『フローラル・由美子』としてそれを命じます。」

そう言うと、女王は人型になった娘をきつく抱きしめた。そして青く薄いストゥールを手渡した。

「このストールはフローラ国に伝わる『天羽の羽根』、『ブルー・ストゥール』です。空を自由に飛べるだけでなく、その身を包めば水中、火中、土中でさえ自由に呼吸ができます。からだを周囲に擬態させて隠れることもできる。これがフローラ国の王女の受け継ぐ宝です」


挿絵(By みてみん)


 女王は『天羽の羽根』を娘にしっかりと巻き、ヘルメットごしに最後のキスをした。そして凛々しくも美しい、コマンドスーツ姿の娘を窓辺に立たせた。

「『テンテン』が着床する相手は『なっぴ』と呼ばれている小学三年生の女の子。まだ覚醒もしていないはずです。けれど覚醒は『テンテン』の仕事、あなたが手伝ってはなりませんよ」

女王が人間界への扉を開けた。

「フローラ・ミストゥール・レ・インクゥアト」

「さあ行きなさい。由美子」

フローラ国の王女は空色の霧とともに、その向こうに吸い込まれていった。

彼女を一緒に見送っていたのは、乳母のミカドアゲハだった。

「女王様。さあ、城の地下に戻りましょう」

女王はにっこり微笑み、城に集合している精鋭の待つ、地下室へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ