一騎打ち
「かかれっ」
まえもって、洞窟には、王国の「けら」によって秘密の抜け道が掘られていた。それを使い、ジグモたちが洞窟内になだれ込んだ。
「くそっ、こいつら一体どこから来たのだ」
小型ながら、ジグモの牙は堅く鋭い。接近戦では暗闇で過ごすジグモに勝てそうも無い。やがて後方の隊には、立ち上がれるものがいなくなった。
「こうなれば、王女の息の根を止めるまでよ」
敗色を感じながらも『キール』は隊の先頭に立った。
「どうだ、感じるか、ベッコウバチ」
「はい、この先に。大きいのが一匹、小さなのが一匹。大きいのが『黒の森』の首長『ダゴス』に間違いありません」
「王女はどうだ、アシナガバチ」
「はい、やままゆの『ゆりかご』の匂いが近くなっております。あのあかりがそうでしょう」
奥から光が漏れていた。
「よし、先を急ぐぞ…」
その時背後の天井から突然、声がした。
「やれっ!」
振り返った『キール』の目には落ちていく天井の岩が映った。さらに隊を分断させるつもりだ。わずかに残った兵士を背後から襲うアシダカグモを確認した。外の兵士を倒し一足早く洞窟に戻ったのに違いない、後方から次々とその長い足で兵士をなぎ倒していく。彼はそれを待っているようだった。
「相手に不足はない」
彼はそう言って振り返った。
「おまえだけになったな、ところで何故王女を狙う」
「キングの血は、残してはならない。そう兄貴に言われたのさ」
「お前の兄貴?『ピッカー』のことか」
無言のままで彼は背中から長い槍を抜いた。柄を二度しごき、まっすぐアシダカグモに向けて構えた。それは敵ながら美しい、一分の迷いの無い姿だった。
「王国や兄貴のことはどうでもいい、俺は、強い相手と手合わせしたいだけさ」
深呼吸をすると、彼は息を整えそして言った。
「いざ、参る」
長い槍は接近戦を得意とするクモ族にとっては厄介なものだ、そのため暗くて狭い洞窟を選んだのだ。しかし槍の使い手の『キール』にとってはそんなものは障害ではない。次第にアシダカグモの『ドモン』を壁に追いつめていった。
(これほどの腕がありながら……)
頭部を狙った槍を寸前で避けると、洞窟の壁に刺さった槍を伝い、彼は天井に飛び上がった。そして今度は八本の腕を会わせて落下した。『キール』は槍を抜きとると素早く跳ね上げたが、切り落としたのは八本ある足の一本だけだった。
「足の一本くらいは、お前にくれてやろう」
そう言いながら、彼は牙を『キール』の胸に深く入れた。『キール』はうめき声も上げず息絶えた。
「腕の立つヤツだった。外なら俺はやられていたかも知れない」
アシダカグモの『ドモン』は『ダゴス』の計略の見事さに感服したのだった。




