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なっぴの昆虫王国  作者: 黒瀬新吉
25/112

一騎打ち

 「かかれっ」

まえもって、洞窟には、王国の「けら」によって秘密の抜け道が掘られていた。それを使い、ジグモたちが洞窟内になだれ込んだ。

「くそっ、こいつら一体どこから来たのだ」

 小型ながら、ジグモの牙は堅く鋭い。接近戦では暗闇で過ごすジグモに勝てそうも無い。やがて後方の隊には、立ち上がれるものがいなくなった。

「こうなれば、王女の息の根を止めるまでよ」

敗色を感じながらも『キール』は隊の先頭に立った。

「どうだ、感じるか、ベッコウバチ」

「はい、この先に。大きいのが一匹、小さなのが一匹。大きいのが『黒の森』の首長『ダゴス』に間違いありません」

「王女はどうだ、アシナガバチ」

「はい、やままゆの『ゆりかご』の匂いが近くなっております。あのあかりがそうでしょう」

奥から光が漏れていた。

「よし、先を急ぐぞ…」

その時背後の天井から突然、声がした。

「やれっ!」


挿絵(By みてみん)


振り返った『キール』の目には落ちていく天井の岩が映った。さらに隊を分断させるつもりだ。わずかに残った兵士を背後から襲うアシダカグモを確認した。外の兵士を倒し一足早く洞窟に戻ったのに違いない、後方から次々とその長い足で兵士をなぎ倒していく。彼はそれを待っているようだった。

「相手に不足はない」

彼はそう言って振り返った。


 「おまえだけになったな、ところで何故王女を狙う」

「キングの血は、残してはならない。そう兄貴に言われたのさ」

「お前の兄貴?『ピッカー』のことか」

無言のままで彼は背中から長い槍を抜いた。柄を二度しごき、まっすぐアシダカグモに向けて構えた。それは敵ながら美しい、一分の迷いの無い姿だった。

「王国や兄貴のことはどうでもいい、俺は、強い相手と手合わせしたいだけさ」

深呼吸をすると、彼は息を整えそして言った。

「いざ、参る」

長い槍は接近戦を得意とするクモ族にとっては厄介なものだ、そのため暗くて狭い洞窟を選んだのだ。しかし槍の使い手の『キール』にとってはそんなものは障害ではない。次第にアシダカグモの『ドモン』を壁に追いつめていった。

(これほどの腕がありながら……)


 頭部を狙った槍を寸前で避けると、洞窟の壁に刺さった槍を伝い、彼は天井に飛び上がった。そして今度は八本の腕を会わせて落下した。『キール』は槍を抜きとると素早く跳ね上げたが、切り落としたのは八本ある足の一本だけだった。

「足の一本くらいは、お前にくれてやろう」

そう言いながら、彼は牙を『キール』の胸に深く入れた。『キール』はうめき声も上げず息絶えた。

「腕の立つヤツだった。外なら俺はやられていたかも知れない」


アシダカグモの『ドモン』は『ダゴス』の計略の見事さに感服したのだった。

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