オニグモの首長
「コガネグモが参りました」
オニグモの首長『ダゴス』は大小8個の目をまだ眠そうに開けた。
「何だこんな朝早く、密入国者でも捉えたのか?」
「いえ、王国のトビヤンマが『ダゴス』様の網に……」
今では「ペレット」を主食にしているクモ族だが、フローラ国の守備隊を勤める今。フローラ国への入り口『黒の森』の至る所に『ダゴス』の網が仕掛けられていた。それは恐ろしく丈夫で、五年や十年は風雨に耐える網だ。
「わしの網を避けられないほどのスピードでか? それほど慌てるとはただ事ではあるまい、それで丁寧に弔ってやったのか」
「はい、実はその時これを草むらで見つけました」
「一度私の網に当たって落ちた様です」
その丸い包みを開いて、『ダゴス』は驚いた。やままゆがのまゆで作った、王家の『ゆりかご』だったのだ。『ダゴス』は側にあった大臣の手紙を開いた。
「何ということだ、王国内に恐ろしいことが起りはじめている」
その手紙は大臣が、『ラクレス』の野望を記したものだ。それをしまい『ダゴス』は守備隊長の『ハガネ』にその手紙を渡すよう、「黒の森一の走り手」である「ハシリグモ」の『イダテン』に渡した。
「良いか、ものども。我らの力でこの姫を守ってみせようぞっ!」
「おおおうっ」
「いいか『イダテン』、姫は行方不明だと伝えろ、それからすぐに空色シジミを呼んでこい。やがて森にヤツらの追っ手が来よう、久し振りに暴れるぞ!」
「カチッ、ガチチッ」
彼の太い二本の牙が、上下に噛み合った。
『イダテン』が森に戻った時には、クモ族は洞窟に集まっていた。洞窟は横に長く、その一番奥には、そこに皆が立てこもっても十分な食料と湧き水がある。さらにその洞窟には仕掛けがしてあった。空色シジミが、森に着きさっそく『ダゴス』の側にある、王家の『ゆりかご』を覗き込んだ。
(ああ、まさしくこれは王女、でも既に手の施しようがない)
『ダゴス』も王女の命は、まさに尽きようとしていると感じた、だからこの洞窟の中に空色シジミを呼んだのだった。そこへ見張りのハエトリグモが転がり込んで来て第一報を入れた。
「スズメバチが現れました」
続いてクサグモの第二報が伝えられた。
「アシナガバチ、ベッコウバチも加わっています」
「我らの天敵、ベッコウバチもか」
そう言ったのは参謀のアシダカグモだった。
「スズメバチどもは口々に王女を知らないか、隠すヤツは皆殺しだと……」
ジョロウグモがそう報告すると、『ダゴス』はアシダカグモに命じた。
「洞窟にかくまっていると言え、王女を渡すつもりはないとな」
「いいのですか?」
「わしの言う通りにしろ、守備隊が命がけで王女は守っているとな」
「承知しました」




