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なっぴの昆虫王国  作者: 黒瀬新吉
21/112

初勝利

 なっぴは結構器用に『ヴアイオレット・キュー』を扱った。バトン部なみに、上手にくるくる回す。『ガマギュラス』のカマも次第にはじかれてしまう。由美子の方を狙ってみても『インディゴ・ソード』ではじかれはじめた。

「ヤツらが次第に強くなってきている……」

 彼がそう思ったのは無理も無い、しかしそうではなかった。実は、なっぴの『ヴアイオレット・キュー』は殺傷する武器ではなく。B・ソルジャーに与えられた、『虹のしずく』の力を吸収するものだ。打突部が相手に当たる度に『虹のしずく』のパワーを少しずつ吸収する。相手のパワーが半分以下になった時、初めてデリート可能になり、『デリートガン』がセット・アップ出来るのだ。つまり『ガマギュラス』の方が、なっぴの一打ごとに弱くなって来ていると考えた方が正しい。そのパワーの計測はヘルメットの左右のコマンダーと触覚で感知し、『テンテン』がなっぴにデリートを促すのだ。

 なっぴにはもちろんビリヤードの経験は無い、腰を落とし、低く構えて左右から水平に振られたカマを交わす。次の瞬間、屈伸すると同時に『ガマギュラス』を突き上げた。カマを胸の前で交差して防ぐ『ガマギュラス』だが、数センチの直径しかないキューの打突部は正確に『ガマギュラス』を貫いた。


 「ゲプッ、お・おのれっ…」

彼は胸を押さえて後ろに吹っ飛んだ。すかさずに由美子の体が中を舞う。彼女のストゥールはフローラ国の織姫『アモウ』の織ったもの、別名『天羽の羽根』とも呼ばれる。自動修復されるだけでなく、重力も調整し、空中に浮く事も可能だ。


 「トン」

由美子がつま先で床に降りると同時に『ガマギュラス』のカマがひとつ、床にドサリと落ちた。『テンテン』の声がコマンダーから聞こえた。

「なっぴ、もうひと頑張り。バッタを召還したわ、着装し、そして高く跳んで」

「セット・アップ・グラス・ホッパー」

召還されたバッタの能力が、一瞬でなっぴを天井まで跳びあがらせた。このままだと天井さえ突き破ってしまうほどの勢いだ。

「えいっ」

体を空中で回転させて天井をけり、ターンして『ガマギュラス』のま上に降りていったなっぴを彼は片方のカマだけではもう防ぎようがなかった。

「レインボー・ショット」

なっぴはキューを振り下ろすとともに、長く伸ばしながら打突の勢いを増した。

「バキッ」

肩を突いた一撃は、『ガマギュラス』の肩当てを砕いた。


 「なっぴ、デリートしなさい。『ガマギュラス』のパワー、三十ハパーセント」

床に降りたなっぴは、左の肩にキューを戻し、腰に手を近づけた。

「セット・アップ・デリート・ガン」

なっぴは右手で『デリート・ガン』を抜き、コマンドを言った。

「アイ・トランスファー・イット・トウ・ザ・キングダム。王国にお帰り」

 虹の光が『デリート・ガン』から照射された。彼は、虹の霧に包まれながらたまらなく眠くなった。

(俺は今まで何をしていたんだろう……)

やがて意識も霧のように遠くなっていった。


 体育館の屋根の上で王国に向かう虹色の霧を見て、まいは言葉を吐いた。

「あーあ、負けちゃった。あいつ全然たいしたこと無いじゃん」

そう言いながら、立ち上がった。

「でも、次はこうはいかないわよ」


 彼女は数度とび跳ねると、空に現れた王国への入り口に吸い込まれていった。

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