小さな失恋
彼は次第に体が回復した、テンテンにはそれが何よりうれしかった。だがそれは彼を再び旅立たせる事となる。ある日の事テンテンが巫女の姿で彼の前に現れた。
「一緒に来て『バイス』。母さんが、あなたに見て欲しいものがあるって。」
彼が案内されたのは『虹のしずく』のある『ほこら』だった。
「いいのか?こんなところへよそ者なんか連れてきても」
「構わないのよ、『バイス』」
母の『メイメイ』が微笑んだ。
『虹のしずく』は心正しきものでなければ、見つけることができない。それを扱えるのは彼女たち『虹色テントウ』の一族だけだ。『メイメイ』は彼に『虹のしずく』を見せた。
「ねっ、変でしょう……」
『虹のしずく』は、明滅を何度も繰り返し、時には消え去りそうになったりしている。
「こんなことは、今まで一度もないの」
『テンテン』は、『バイス』なら何か知っている気がした。
思った通り、彼は口伝を始めた。
「王国の言い伝えでは『虹のしずく』が明滅を繰り返す時は、大いなる災いがあり、その輝きが最大になった時、暴君が生まれるという……」
彼は父の書庫の古文書を思い出した。『メイメイ』はそれを聞くとこう言った。
「あなたはもしや、大臣の息子さんでは?」
「ヒラタおじさんの?」
「これっ!テンテン、大臣と呼びなさい」
無理もない大臣には、『テンテン』も小さいときから遊んでもらっていて、よく知っていたのだった。大臣になる前までは、彼は虹の村に住んでいたのだ。『メイメイ』とは幼なじみだと聞いている。
「大臣の息子さんなら、名前は『バイス』じゃ無くて……」
「いえ、私は『バイス』で結構ですよ」
これ以上虹色テントウたちを巻き込むことはできない。彼は今夜にもエビネ国へ向かおうと思った。『メイメイ』は彼に深い考えがあることを察してこう告げた。
「行きなさい、『バイス』。『ドルク』に伝えるのです。『虹のしずく』が明滅をくりかえしていると」
その夜は、日没を待ちかねた満月が早くから東の空にあった。
「……いつか役に立つと思う、いらなきゃ捨てていい」
手紙の側にあった皮の袋に入っていたのは、こん棒やブーメランやヨーヨー、まるで役に立ちそうの無いオモチャばかりだった。
「一人で行っちゃうなんて…」
その手紙を握りしめ、『テンテン』が立ち上がった。彼女のこぼした涙の雫で、虹の池の水面に映った満月が、少しずつ歪んでいった。




