足
「櫻井・フローラル・由美子です。父の転勤で日本に来ました」
転校生は、お父さんがフランス人の女の子だった。青い目をした色の白い金髪の由美子は、彼女のとなりの席に座った。
「よろしくね、なっぴ。私の事も由美子って呼んでね」
なっぴはその素敵な転校生の、最初の友達になった。
なっぴは体育の授業が一番好きだ。自信があるのは「走り高跳び」だ。100センチを超えると、順番を待つ友達が少しずつ、減っていく。そんななか、色の違う体操服の由美子はまだ残っていた。
「由美子、がんばってるじゃん」
なっぴは今日は120センチに挑戦しようと思った。由美子は彼女よりも少し身長が高かった。
「次、櫻井さん」
先生に呼ばれた由美子が立ち上がった、細い由美子はさらに背が高く見えた。彼女は「背面跳び」という華麗な跳び方で140センチを跳んだ。基本ができていなければ危険な跳び方のため、学校では教えてくれない。なっぴは「ベリー・ロール」で130センチ、それでもクラス2番になった。
「すごい、なんであんなに跳べるの? 空で踊っているみたいに」
「へへっ、実は自信あったの。他の種目は全然駄目だけどね」
「今度教えてね、その跳び方」
「もちろんよ、約束」
確かに由美子は、その後の鉄棒や跳び箱では、彼女に叶わなかった。
「じゃあ、また明日ね」
由美子は迎えの車を見つけると、校門の前でなっぴと別れて車に向かった。
「ただいま、『パピィ』」
だが運転席には誰もいない。彼女は後部座席に滑り込んだ。ウインカーがつき、ハンドルが回りはじめた。
「どう、なっぴと会えた?」
運転席の背もたれにくっついていたのは、小さなシジミ蝶の一種、透き通った羽に淡いブルーのラインの入った「空色シジミ」だった。
「ねえ、なっぴが本当に私たちの希望なの?そんな風には見えないけど……」
「まだ、完全に覚醒していないわ。でも間違いない、「テンテン」彼女に着床していることは、フローラ女王が私に教えてくれたから」
なっぴは先生から預かった連絡ノートと宿題を、たいすけに届けるため、少し遠回りをした。
「あーあ、もう10センチ跳びたかったなあ」
「嘘だろ、おまえより高く跳べる子がいるのかよ」
「背面跳びって凄いのよ、そうねえ、まるで空を飛んでるみたい」
「ふうん、明日が楽しみだな。ようし、明日のためにもう寝よう」
「宿題は?」
「おまえに任せた」
「バカ、なに言ってるの!」
帰り道には、両側が塀の狭い道があった。車は入って来れない、歩行者専用道路のはずだった。道の中程まできた時、信じられない事に前から車が向かってきた。振り返るともう一台が道を塞いでいる、絶体絶命だ。その時、耳から這い出た小さな虫が、彼女の右足にとまって叫んだ。
「コマンド・トゥ・カム・ブルー。セット・アップ・グラス・ホッパー」
彼女のの右足にみるみる力があふれる。耳の奥からちいさな声が聞こえてきた。
「さあ、跳んでなっぴ」
間一髪跳びあがった足下で、正面衝突した二台の車が爆発した。彼女はふわりと塀の上に降り立ち、それを見下ろしていた。
「何が起ったの、私どうしちゃったの……」
彼女は気を失った運転手の耳から、小さな陰が逃げ出すのをはっきり見た。
「危機一髪だったわね」
虹色に輝く小さなテントウ虫が、彼女の目の前でそう言った。
「あなたの命を狙ったのは、王国を乗っ取った『ラクレス』の『ブラック・ソルジャー』たちなの。私は虹色テントウの『テンテン』あなたが覚醒するまで、女王様の命令で着床していたの。よろしくね」
彼女は「テンテン」に突然そんな話しを聞かされて、ベッドの中でもまだ完全に信じていなかった。ただ、危険を察知し、彼女を救ってくれたのが昆虫王国の「テンテン」という「虹色テントウ」という事だけは確かに信じたのだった。