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なっぴの昆虫王国  作者: 黒瀬新吉
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テンテンの宝物

 そのカプセルには、『テンテン』の「宝物」が入っていた。それは虹の村にやってきたクワガタ族の男にもらったものだ。男は虹の池の岸に這い上がったまま、気を失っていた。旅の途中、何者かに襲われて深手を負っていた。男は『エビネ国に行かねばならない』ということは覚えていたが、それ以外の記憶は無い。

 「俺は何故、エビネ国に行くのか?そもそも俺は誰なのか」

体中の傷が何度もうずき、気が遠くなりながらも誰かの優しい声を聞いた。

「しっかりして、私が必ず救ってみせるからね……」

それが虹色テントウの少女「テンテン」との出会いだった。


 「ここに置いておくから、遠慮しないでね」

彼女は軟らかい食事を男の枕元にそっと置いた。

「俺は助かったのか……」

男の手当は彼女が丸二日、寝ずにしていたのだ。母の『メイメイ』は、巫女の力で男の記憶を元に戻そうとした。名前がないと不便だったので、『バイス』と呼ばれた。数日のうちに彼はその名前が気に入った。彼の記憶は、少しずつ戻ってきた。


 「俺を襲ったのは、異国からやってきた『カラスヤンマ』だ。俺は見たんだ、あいつが『ノコギリ副大臣』に巨大な複眼で催眠術をかけ、操るのを」

彼は、ヒラタ大臣の息子だった。酒場で働き費用をためていたのだった。彼は王国の勇者『ドルク』のもとに行きたくて仕方なかった。武術では長けていた彼は、オオクワガタの『ドルク』を負かして名を上げたいのもあったが、尊敬する父でも、勝てたことが無かった『ドルク』とはどんな勇士だろうかと、興味深々だったのだ。

 彼は酒場で『シェイカー』をふりながら『ノコギリ副大臣』が次第に意識を失い、変貌していくのを見ていた。王国に降り掛かる黒い霧をいち早く知ったのだ。自分も操られている振りをして、なんとかごまかして、酒場から戻るとすぐ父に話したのだが……。


 「何と、情けない。こんな時間まで酔っぱらいの相手などをしているから、つまらんことを考えるんだ。いいか、副大臣は立派な男だ、そんな口車に乗る訳が無いだろう。『カラスヤンマ』だと?ああ知っている、そいつが住んでいるのは随分南にある、熱い異国なんだぞ。冬という季節のある王国に来れる訳は無い。夢と現実がわからなくなってしまったのか、この馬鹿息子がっ!」


(それが父を見た最後だ。俺は副大臣の野望を『ドルク』に話してこの王国を救ってもらおうと、家を飛び出したんだ。後を追いかけてきたやつに俺は襲われたんだ。俺の記憶と、自分の身元が分かるものはその時に全て持ち去られた……)

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