戦う由美子
「かわいそうだが『テンテン』と一緒にお前も切り刻んでやるわ」
「なっ、なんなの、こいつ?」
「B・ソルジャー『ガマギュラス』参る」
そう名乗ったのと同時に右のカマが打ち込まれた、なっぴは後ろに跳び下がり、それを避けた。床の板が数枚砕けた、執拗に二度、三度交互に左右のカマが空を切った。
「すばしっこいヤツだ、しかしいつまで持つかな?」
なっぴはとうとう体育館の隅に追いつめられた。大きく振り上げられたカマが振り下ろされようとした時『ガマギュラス』の動きが一瞬止まった。たいすけがバーで『ガマギュラス』の頭をおもいっきり殴りつけたのだった。
「こんのやろう、なっぴになにするんだっ!」
「ふん」
振り向くと軽くそのバーを払った。それだけでバーはまっぷたつになり、彼の服が裂けた。彼の赤い血が真っ白いシャツににじむ。
「もう、限界ね、『パピィ』」
そう言うと、由美子がなっぴの前に立って、両腕を開き『ガマギュラス』を止めた。そしてからかった。
「カマキリさん、こっちおいで」
「なにおっ、小娘。お前から刻んでやろうか」
真横一文字に、カマが振られた、ちょうど由美子の首の位置だ。なっぴは目を覆った。しかし、由美子はそれを宙返りで交わした。そう、さっきの背面跳びのように華麗な宙返りだ。
「惜しかったわね、私の首はまだついてるよーん」
「生意気なヤツ、これならどうだ」
今度は左右から斜めに交互にカマが打ち降ろされた。由美子はそれを則転で交わしながら少しずつ彼ををなっぴから遠ざけた。
「いつまでもこれじゃあ、らちがあかないわね」
由美子はなっぴに叫んだ。
「なっぴ、『テンテン』を召還して。早く」
「どうして、由美子が『テンテン』のことを知ってるの?」
「話しは後、いい、こうするのよ」
由美子はふたたび宙返りをして間合いを取り、こう叫んだ。
「『パピィ』、召還」
瞬時に「空色シジミ」が彼女の髪に止まり「コマンダー」に変形した。
「メタモルフォーゼ・アゲハ」
由美子の体は「コマンダー」から溢れる空色の光に包まれた。由美子の体はさらに輝きを増し、次第に体の内部が透けはじめた。完全に透明になると次に足下から由美子が再構築されていった。
「メタモルフォーゼ」とは、昆虫が蛹の内部で行っているように、体の内部組織を一度融解してその後、強靭な体へ生まれ変わることなのだ。「メタモルフォーゼ」に要する時間は、人間界では一瞬のことだ。ただこのシステムに耐えるために、二人は一瞬で肉体も十六歳にまで急成長する。




