第二章 第一の刺客
「人間界で俺が自由になるには、時間がかかるのだな、とうとう小娘が覚醒してしまったぞ」
『ガマギュラス』は、これまで何度か、なっぴを襲ったが、すべて失敗していた。彼がB・ソルジャーとして動くには『ブラック』の力が必要だった。彼はずっとなっぴを狙っていたのだった。
なっぴは、その日の放課後、体育館で由美子と「背面跳び」の練習をしていた。たいすけも一緒だ。バーは120センチを越えてきた、今日こそ飛べるかも知れない。斜めに助走をし、利き足で踏み切る。背中は超えたが右足のかかとがわずかにバーに引っ掛かった。
「うーん、もう少し。ほとんどできてるわ、さすがなっぴ」
由美子が褒めてくれた。
「確かに、ほとんど跳べてら」
たいすけも拍手をした。しかし彼はいつも見ているだけだ。
「たいすけは跳ばないの?」
「俺はいいや、見てるだけで」
「楽しいのに」
見馴れない女の子が体育館に入った。まっすぐこっちへ向かってきた。
「私にも跳ばせてくれないかな?」
そう言うと、130センチにあげたバーに向かって走り出した。軽々とバーを越える。なっぴには彼女も由美子と同じく、空で自由に動けるように見えた。
「やるわね、私も跳ぶわ」
続けて由美子がバーをクリヤーした。最後には記録を更新し、150センチを由美子が跳んだところで一段落した。
「ところで、わたしなっぴ。こっちが由美子、あなたは?」
「黒崎まい」
「まいちゃんか、うちの学校? 初めて見るんだけど」
由美子が不思議そうに言った。
「転校の手続きにきたところ、三年二組よ」
「エー、凄い、凄い。同じクラスだね」
なっぴは嬉しくてたまらなかった。たいすけもまんざらでなかった。
「そろそろ、戻らないと。またね、なっぴ、由美子それと……」
「たいすけ、俺、たいすけ」
慌てて自己紹介した彼の様子が、おかしくてみんな笑った。
体育館から出ると、まいは脇の草むらに向かってつぶやいた。
「今のうちならまだ、あんたにだって勝てるかもね」
そして、次の瞬間、こう叫んだ。
「召還!『ガマギュラス』」
彼女がそう叫ぶと闇の中から、黒い霧が現れた。人間界に来るために小型になった『ガマギュラス』を霧が包み込み、その霧の全てが体に吸い込まれていった。
「さあ行きなさい、そして『テンテン』を殺しておしまいっ!」
突然、体育館に青草のような匂いがした。三人が振り返ると、入り口からおぞましい生き物がゆっくりと進んできた。大人ほどの身長のある『昆虫人』だ。逆三角の顔には数本の緑色の筋が入り、大きな目玉は左右を睨んでいる。
「ゲフフッ、これよこれ。この体さえあれば最初から簡単だったのにな…」
『ガマギュラス』は、ぺろりと自分の鋭いカマを舐めた。




