だまし討ち
「なにっ、『ギリーラ』の隠れ場所がわかったのか」
脱獄して行方がわからなくなっていた、凶悪犯の『ギリーラ』が見つかった。妃から王子が生きているかも知れないと聞き、わずかな希望が見えたときだ。キングはすぐに町のはずれの古い屋敷に向かった。周りは王国の近衛兵が固めていた。
「不敵にも王と一騎打ちがしたいと言っております」
「確かにヤツを捉えることができるものは、そうはいないだろう」
そう言い放ち、キングが屋敷に入り階段を駆け上がった。
「ガチャッ」
近衛兵が入り口に施錠をしたのを合図に、そっと屋敷の回りに薪が山積みにされた。
二階の部屋のドアを蹴破って、キングが飛び込こんだ。
「『ギリーラ』、貴様……」
側に捉えられていた妃を見ると、キングは太いツノを低く構えた。
「来るか」
「ギリーラ」は鋼鉄さえ噛み切る牙を剥き、ムチのように自在に操れる長い触覚を振りかざした。キングは接近してツノで持ち上げようとするのだが、うかつに近づけないほどの威力の触覚だ。キングは作戦を変えて、その触覚をつかむと『ギリーラ』を振り回した。一回、二回、三回、そして投げ飛ばした。新たな敵の声がした。
「やるな、キング。はたして、これでも戦えるかな」
キングは目を疑った、妃に刀を当てているのは王国の近衛兵だった。
「おのれ、裏切ったのか」
キングの目に『ギリーラ』のムチが当たった。
「ウッ」
「これであいこだな、キング」
『ギリーラ』はそう言うと牙を剥いてキングの太いツノを噛み切った。
キングは渾身の力で『ギリーラ』を窓から投げ飛ばした。羽を広げて静かに着地した『ギリーラ』は近衛兵に命令した。
「やれっ」
いっせいに屋敷の周りに積まれた薪に火がついた。
「もはやこれまでか。だがなんとか、妃だけでも助けなければ……」
しかし振り返るとそこに妃の姿は無く、黒い小さな影が、窓から出て行くのを見ただけだった。
炎に包まれながら、キングは膝を落とした。
「キングが死んだなんて……、そんな」
女王は顔を覆った。
「こうして私がここにいるのが何よりの証拠だ」
羽化を終えた「ラクレス」は、ついにナノリアの城に入り王国支配に乗り出した。
「わしには、これでは窮屈すぎる」
彼はキングが座っていた椅子を太い二本のツノで簡単に砕くと、ふた周りも大きい王座を配下の者に用意させた。
「さて、女王様に頼みがあるのだがな」
『ラクレス』はこう続けた。
「わしを後継者として指名していただきたい。王国に王子が絶えた場合、新しい王の指名がお前には出来るはずだ。それともうひとつ、『メタモルフォーゼ・プログラム』をこいつにコピーして欲しいのだがな」
そこに現れたのは虹色テントウ。漆黒の体に怪しく『虹のしずく』が光っていた。
「すぐにとは言わん。三日まとう、ただし三日ごとに村をひとつ焼き払うがな」
「そんな……」
「最初はお前の妹がいるフローラだ。B・ソルジャー『ピッカー』の腕前を見せてやろう」
妃は元々アゲハ族だった。先代の女王に『メタモルフォーゼ・プログラム』を処方されたことによりキングの妃になったのだ。妹はフローラの女王となり、国を治めている。
「上へ連れて行け、しっかり見張ってな。その気になったら降りてこい」
最上階の部屋に女王は幽閉された。




