漆黒のテントウ
「本当にそんな国になるのか?」
「もちろんです『ラクレス』様が王になればあなた方はもっと自由な行動がとれます」
地下室にいたノコギリクワガタが『ガマギュラス』に答えた。謎の男は異国から来たカブト族の一種、ヘラクレスオオカブトの『ラクレス』と名乗った。
「空を支配するのは我々オオスズメバチだ。これは譲れないぞ」
「もちろん、そうでしょうとも。空は『ピッカー』様、水中は『スタッグ』様、地上は『ガマギュラス』様、そして『ギリーラ』様には……」
「いや俺は、何にもいらない。ただカブト王ともう一度戦い、そして殺すだけが望みだ。この傷の恨みを晴らしてやるのさ」
『ギリーラ』はそう言って、カブト王につけられた大きな傷を左手でなぞった。
「頼もしい、なんと素晴らしい戦士達だ。この日の誓いに杯を酌み交わそう」
そう言って『ラクレス』が黒葡萄酒を注いだグラスをそれぞれに渡した。
やがて黒葡萄酒を飲み干した順に彼らは円卓に頭をついて気を失っていった。
「ファッハッハ、愚か者めが。お前たちはこれから『B・ソルジャー』として俺の命令で動けばいいのさ、死ぬまでな」
『ラクレス』はそう言うと闇に向かってこう命令した。
「リンリン、さあコマンドを書き込め」
真っ黒い羽に七つの星をちりばめたテントウ虫が、その闇の中から現れた。黒葡萄酒は『ラクレス』への忠誠心を強力に植え付けた。彼らは次第に意識が遠くなっていき、それとともに異様な昆虫人に体形も変わっていった。『スタッグ』はそれでも最後まで抵抗していた。
(そうか、バッカス兄さんを凶暴なタガメにしたのはこいつらだったのか…)
目の前の『ラクレス』を睨みつけるのが、彼にはもう精一杯だった。
全てのB・ソルジャーに『リンリン』がコマンドを書き込んだ。
「それぞれに命令する。『ガマギュラス』、虹色テントウ『テンテン』を追い、人間界に行け。そしてやつの持つ『虹のしずく』を奪ってくるのだ」
「次に『ピッカー』、お前はフローラ国へ行け。見逃してやろうかとも思ったが、王女を探して殺してこい、後々面倒になるかもしれんからな」
「エビネ国には『スタッグ』お前が行ってこい。万が一、王子が生き延びているかも知れぬ。『トビヤンマ』ごと、池にたたき落としたからまず死んでいると思うが、念には念を入れてくるのだ」
「心得ました」
「それから『ギリーラ』は王を確実に殺してこい、どんな手を使ってもいい。お前ならできるだろう」
「お任せください」
「『ギラファ』、お前は『ヤツ』を呼び寄せろ。新しい王国を創るためには『ヤツ』はどうしても必要なのだ」
「仰せの通りに」
「最後に、『リンリン』お前も人間界に行け。そして『テンテン』を抹殺して俺のために『虹のしずく』を取り戻してこい」
「言われなくてもそうするつもりよ」
「これ、口の聞き方に気をつけろ。『リンリン』!」
「まあよい、『ギラファ』、人間界に我々の能力を召還出来るのは、『虹色テントウ』だけだからな、大目に見よう」
「私はすでにそれ以上の『漆黒テントウ』なんだけどね」
「これ、また!」
彼がたしなめる前に『リンリン』は煙のように消え去った。




