王国の崩壊
「我慢出来ねえっ!新鮮なバッタが喰いてぇ……」
今夜のオオカマキリは、どうにも酔いつぶれる雰囲気がなかった。現在王国内での捕食は一切禁じられていた。そのかわり栄養価のまったく変わらないペレットを、肉食昆虫には十分支給されていた。ただ捕食者の頂点に立つ、オオカマキリの『ガマギュラス』は巨大なカマを振り上げてバッタの首をはねるのがたまらなくおもしろく、興奮するのだ。
「君の望みを叶えてあげようか?」
酒場のカウンターの端にいた男に誘われるまま、『ガマギュラス』はついていった。酔いも醒めた頃、彼の前には体をまっぷたつにされたバッタと謎の男が立っていた。
「俺が、やったのか……、このカマで」
男は冷たく笑って言った。
「見事なカマだ、B・ソルジャー『ガマギュラス』よ。君にはその姿が一番だ」
「返してください、私たちの蜂蜜です」
ミツバチの蜜壺を抱えた「オオスズメバチ」に、働き蜂が食い下がった。
「ええい、ジャマだ!」
「ピッカー」が鋭い針でミツバチを串刺しにした。
「馬鹿な野郎だ、素直にさしだせばいいものを」
騒ぎになる、長居は無用だ。跳びあがろうとした彼に声をかけるものがいた。
「待て『ピッカー』よ、逃げる必要は無い。これよりB・ソルジャーとなり、この王国を変えるのだ」
男の誘うまま彼は裏町にある店の扉の中に消えた。
「おい、看守。俺の死刑は、いつなんだ」
独房の中のシロスジカミキリがにやりと笑った。片方の目に大きな傷を持つ、「ギリーラ」がクロコガネの看守に聞いた。
「タガメ野郎の次だよ、おまえはな」
向かいの独房のタガメがぴくりと片目を開け、そしてまた目をつぶった。
「兄殺しのタガメ野郎か。確か『エビネ池』から逃げてきたんだな。俺の順番はその後か」
「おい、お前。俺は兄貴を殺してなんか無いぜ。あれは兄貴なんかじゃない。俺のおふくろを殺しそうになったのを、俺がかばってやっちまっただけさ」
「ふん、往生際の悪いタガメ野郎だぜ」
「俺は『スタッグ』って言うんだ。死刑になるから、もう名前なんかどうでもいいが」
「俺は正真正銘の殺し屋だ。俺を捕まえた、キング以外に俺様に勝てるヤツはいない」
そのとき通路に看守がドスンと倒れた。看守の後ろに、まだ煙の立ち上る銃を持った男がいた。
「釈放だ。B・ソルジャー『ギリーラ』、『スタッグ』よ」
大あごを鳴らし、その男は笑った。




