表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なっぴの昆虫王国  作者: 黒瀬新吉
110/112

美しき国、レムリア

『カブト』と『マンジュリカーナ』は『フローラ』の丘に降り立った。


その丘は一面に『トレニア』が咲き誇り、紫の絨毯の様だった。二人は背中合わせになり、競争で一本ずつ『トレニア』の花をかき分けていた。二人はずっと『笑ったトレニア』をさがしている、ひとことの会話もない、やがて夕刻になり『カブト』が消え去るのも近くなった頃、二人が同時に一本の『トレニア』を見つけた。それを取り合ううちに抱き合い、キスをした。そしてそのままもつれあいながら空に舞う。『ひとつがい』のチョウのように二人ははゆっくり上っていった。眼下に『レムリア』の国々を見渡したとき、『カブト』が初めて口を開いた。


「なんと、美しい国だろう」

「もっともっと、立派になりますわ。私たちの子供達が道を迷わなければ」

「ああ、『愛しのマンジュリカーナ』、そうだな」

次第に身体が消え始めた『カブト』は地上に降り立った。そして、静かにその時が来た。二人は抱き合ったまま天空を見上げると、分離したなっぴ達に向かって『ありがとう』と一言だけ言った。その姿が完全に消え去るまでなっぴたちは二人を見つめていた。

挿絵(By みてみん)

それを見とどけると夕陽もやがて完全に沈んだ。


「女王様、『マンジュリカーナ』はずっと私に話しかけていたの、『レムリア』を離れてからもずっとこの国を気にかけていたって。

「人間界での『リカ』、『万寿里香』は『マナ』の力を全て失っていた、私もほとんどを無くしてしまった。『次元の谷』を作ったのは、私たち二人の『マナの力』によるものなの、人間界も含め、異界からこの『レムリア』を守るために、この国の国民を守るために。だから少しのきっかけで闇が暴走し始めるのかもしれない。『イオ』と『アギト』二人の王子を『カブト』は自ら倒し、その後、自分の中の闇に負けた。私が最愛の『カブト』を封印しなければならなかったのは、まだまだ『ムシビト』が不完全で、か弱い証拠だと思って……」


なっぴは母に『レムリア』の一年が人間界の十年に相当し、『ムシビト』は五・六年が寿命だと聞いた。『次元の谷』をシンクロして越えなければ、例えば人間界からやってきた『ヒト』はこの国に着いたとたん十歳も歳をとり、一年ごとに十歳ずつ歳をとってしまう、時間の流れが速いのだ。逆に『ムシビト』が人間界に行った場合、十年間で一歳の歳をとることになる、『里香』は五十歳(王国年齢五歳)で他界した。十年間で一歳の歳をとることになる、なっぴの母は自分の『マナの力』を『マンジュリカーナ』が『レムリア』から持ち帰った『虹の石』と『トレニア』に封じ込めた。それが『マンジュリカの玉』だ。『ロゼ』は母を通して、なっぴや人間界の事をこの国にいながら、よく知っていた。


「香奈はね、私たち巫女を通して『レムリア』の様子がわかるように『マナの力』を使ったの。そのため『次元の谷』を渡る事はできなかった、なっぴがここへ召還してくれなければね。危機に直面していたこの国に、あなたを呼ぶ事は避けたかったから、私は人間界に『テンテン』を送ったの。『テンテン』をあなたが着装できるのは、『マンジュリカーナ』の意志を受け継いでいるからなの」


だが一番なっぴが気にかけていたのは、『ムシビト』に『ヨミ』を解放して果たしてよかったのかという、『マンジュリカーナ』の言葉だ。闇が暴走し、『ムシビト』自身がやがて『ヒト』のように殺しあい、苦しむようになるのではないか、それを自制する事ができるまでもう少し待った方がよかったのではないか、新たに過酷な試練を自分が与えてしまったのではないか、と。実際に『ヨミ』を解放したなっぴも実は同じ気持ちだった。それがなっぴの心を塞いでいた。


「私が余計な事をしなければ、『ヨミ』をあのまま封印していたら」


 なっぴの独り言と、涙を見て『ロゼ』が包む込むように彼女をそっと抱きしめて言った。

「なっぴ、ありがとう、みんなを代表して礼を言います。そして……」

『ロゼ』の右手が思いっきりなっぴの頬を打った。

「なんと、情けないっ!こんな情けない『マンジュリカーナ』は今までいないっ!」

なっぴは唖然として『ロゼ』を見た。『ロゼ』はなっぴに後ろを見ろと合図をした。


 「あらあら、一発では足りないみたいね」


 『由美子』、『テンテン』、『リンリン』にもつづけて『ビンタ』され、さすがのなっぴも、とうとう怒りだした。

「なんで、あなた達にまで『ビンタ』されるの?わけわかんないよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ