さらわれた妹
「しっかりしてっ、お母様」
まだ意識のはっきりしない『メイメイ』を何度も彼女は揺り動かした。
「……テンテン。私今まで……。『リンリン』、ああ『リンリン』はどこ?」
「お母様しか、ここにはいなかったわ……」
「じゃあ、あれは夢ではなかったのね」
大臣は「メイメイ」の側に寄ると、ようやく落ち着いた彼女に聞いた。
「何があったというのじゃ」
「実は、「テンテン」が出かけた後しばらくして、副大臣が突然ここに……」
「あいつは副大臣などではない、『ギラファ』と名乗っている悪魔じゃ」
「それでしつこく、虹のしずくを渡せと私を責めたのですね。たとえ虹のしずくを手にしても、あなたたちに使いこなすことはできないと断ったら、こう言ったのです」
「俺たちが使う必要は無い、王国のものに使わせてはならないからこそ、奪い、破壊しにきたのだ。渡さぬのならそれでもいい、その鍵を持つのはお前たち虹色テントウだ。皆殺しにしてしまえば、起動することも無いだろう」と。
彼女は『虹のしずく』の原石を紫の小箱から取り出すと「テンテン」の羽に近づけた。背の星と同じ色の原石が引きつけられその羽にくっついた。
「ムーア・ルーミー・かぁーっ」
『メイメイ』は呪文を唱えてその羽に『虹のしずく』の原石を封印した。
その時、大臣は七つの原石のなかに、かなり小さいものがあるのに気付いた。それを見た「メイメイ」が説明した。
「ギラファは『虹のしずく』を渡さなくても、私たちを皆殺しにすればことは済むと言いました。でもそれはおそらく嘘でしょう『虹のしずく』と『虹色テントウ』の両方を奪うことが、『ギラファ』たちの目的のはずだと思ったのです」
「おそらくその通りです。後は私が話そう」
声が詰まりはじめた「メイメイ」に代わり「ジゲン」が話しはじめた。
「大臣、実は勝手なことをしてしまいました。彼女の双子の妹、『リンリン』に前もって原石を封印していたのです。ヤツらが欲しがる武器が呼び出せるものです。これをみすみす捨てることはしないでしょう。そうしておけば、メタモルフォーゼ・プログラムを聞き出すまで、女王の命は保証されると考えたのです。だから今、封印した原石の中にかなり小さいものがあるのです」
「それを『ギラファ』に言ってやると『リンリン』の首にかかっていた、大あごを外しました。配下に『リンリン』を渡すと、もう私は用済みで殺される直前でした」
「それは機転が利いた、二人とも良くやったぞ」
大臣は感心した。しかし『リンリン』が危険なことに変わりはない。
「母さんを許してね、「リンリン」…」
「メイメイ」はようやく目覚めた「テンテン」を見るとこれからの二人の運命が、大きく変わるきっかけを作ってしまった、自分を悔いた。
「もはや一刻の猶予もない、すぐに女王の元に行き、メタモルフォーゼ・プログラムをコピーしていただくのだ」
早速彼女は村で一番早い『トビヤンマ』に乗り、たちまち見えなくなった。見届けた大臣は安堵したが、また小さなため息をついた。
「一足先に王子たちを運んだヤンマたちは、やはりここには戻らぬか……」
大臣はフローラ国に向かうことにし、自ら消息を絶った。




