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なっぴの昆虫王国  作者: 黒瀬新吉
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ヨミのはからい

 やがて、『マンジュリカーナ』から『リカーナ』が分離し、周囲の皆を見つめた。


「『マンジュ』、そして『アロマ』、『レムリア』をよく守ってくれたわね」

「お母様… …」

『アロマ』は『ビートラ』の血をひく王女だ。彼女は王国に留まり、姉の『マンジュ』の長女『トレニア』を引き取って育てたのである。その娘が『サキ』と『フランヌ』だった。

「お姉様は、どうしてもあのとき『ヨミ』を『七龍刀』で打ち砕く事はできなかったと、産まれて間もない『リカ』を連れて異界に消えたのです、王宮もそして七龍刀も封印して……。お母様、私にはお姉様のような『力』は現れなかった、私にはそれが不思議だったの」

『リカーナ』は『アロマ』からそう聞くと優しく答えた。

「あなたが産まれたとき、あなたに備わっていた『マナの力』は全て抜き去り、私が『虹の原石』に変えたからです。『レムリア』の巫女の力は、全てあなたの『マナ』の力によるものなのですよ」


 なっぴがふと見ると『ヨミ』は既に胸まで崩れていた。

「ああ、この心地よさはなんだ、俺を包み込むものは……。広がりたいと思えば際限なく広がり、塞ごうとすればそれも叶いそうな暖かいこの空間は。俺は本当に救われたのだな。なっぴ、ありがとうよ」

それが姿ある『ヨミ』の最期の言葉だった。つむじ風が吹き、『ヨミ』の残した塩の小山が吹き飛ばされ砂煙が上がった。


 「ぺっぺっ、塩っからいぜ」

塩の煙をまともに浴びて『コウカ』がつばを吐いた。その仕草に皆吹き出した。やっと落ち着いた煙の中から、『リカーナ』は立ち上がるその影を最初に見つけた。


 「『ゴラゾム』様……。『マンジュ』、お前の父様よ」


 「瀕死のわしを『ヨミ』はそれでも約束通り高く買ってくれた。そしてこの時間をくれたのだ……。お前が『マンジュ』か、『リカーナ』にそっくりだ。よかった、本当に『ムシビト』は復活したのだな」

そう言うと彼はその場の皆を見渡した。

「お前が妹の『アロマ』だろう、『ビートラ』に似て涼しげな目だ」

次いで王は、なっぴと目が合い、リカーナに笑って言った。

「おや、あの時の『草原の裸足の天使』がここにいる?」


 「異界の『マンジュリカーナ・小夏』。その母の『香奈』、私は『マンジュリカーナ』の娘、孫の『里香』ですわ。」

「あら、ずるいわね里香。先に紹介するなんて…。私は『アロマ』の娘の『フローレス』、長女『ロゼ』、次女の『フローラル』、三女の『メイメイ』です」

「私は『里香』の姉の『トレニア』です、おじいさま。二人の娘は『エビネ国』の巫女の『サキ』、『セブリア』の巫女『フランヌ』です」

今度はなっぴが口を開く、なんだか自己紹介ばかりになってしまったようだ。

「そして新米巫女の、三人は『由美子』、『テンテン』、『リンリン』です」


 なっぴが紹介し終えると、今度は『カブト』が口を開いた。

「私は『マンジュ』の夫『カブト』、次に『ナノリア』の王『キング』、『ロゼ』の夫です。そして『セブリア』の王、『ラクレス』は『フランヌ』の夫です。続くのが『テラリア』の王『コウカ』、『ゴラリア』の王『エレファス、王国を守ってくれた勇士は『ガマギュラス』『ピッカー』『ギリーバ』そして『フローラ』の夫『ダゴス』『メイメイ』の夫『ドルク』、そして……」


 今度もまた、なっぴが口を挟んだ。


 「『由美子』とラブラブ中の『ドモン』、『リンリン』とラブラブ予定? の『バイス』。『テンテン』のお相手は今『カブト』の寄り代なので今は不在でーす」

「なにが不在でーすよ、なっぴ、もう!」

三人がそう言って交互に顔を赤らめた、でも誰もそれを否定しなかった。

 退屈な自己紹介だが、『ゴラゾム』にとってはそれが嬉しかった。この身体がここにあるのはもう少しだ。これは『ヨミ』が最後に残してくれた時間なのだ。こうして何代も続く『ムシビトたち』をあのとき誰が想像できたのだろう。彼は満足だった、と同時に不安にもなった。彼もまた、一歩『ヨミ』の心に近づいたのだ。

「俺たちが今後助けなければ、『レムリア』は……」


 その時、今度は力強いヨミの声が彼には聞こえた気がした。

(決断は自分でするものだ。『ゴラゾム』よお前なら正しい決断ができる。未来を切り開いていくのはいつの時代も若い世代だぞ……)


 やがてその時が近づいてきた、彼は少しずつ色が薄くなってきた足で立ち上がった。

「皆、よくがんばったな。だがやっとスタートラインだ。『ムシビト』はまだまだ弱いものに変わりない。『マナ』もそして『ヨミ』も揃った今、『知的生命体』として異界の『ヒト』を目標にしろ。『ヒト』も完全ではなかろう、殺戮も理不尽な事もある、しかし愛もまた溢れている。光も闇も必要な限り、それを受け入れて正しき決断へ進め、その決断をするのに俺たちはもう邪魔になる。『ヨミ』が最後に残してくれた力、それを使い我々は『ヨミ』の元へ行く。もうこの地に現れる事はない。これからはただの傍観者だ。しかし、俺たちがいつも見守っている事を忘れるな……」

 彼の決断がくだされると、ごうと空気が大渦を巻き、皆なぎ倒された。寄り代によって実体化した『カブト』を除き、全ては渦に巻き込まれ、消えていった。あっという間の出来事だった。

 「さすがは『ゴラゾム』決断が早い。わしはヤツを取り込んだつもりだったが、『マナ』の言った通りあのときわしの方がすでに取り込まれてしまっておったのかもしれない」

次第に『ヨミ』の声も小さくなっていく。


 「だがな、わしは何度でも甦る、お前達が闇に暴走すればな、いいか覚悟しておけよ」


「フゥーツ、滑り込みセーフってとこね」

転んで汚れた尻をはたくと、なっぴが立ち上がりちょっぴり舌を出した。

「もうーっ、いきなりなんだから、大おばあさまったら……」

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