かたくななヨミ
ー『タオ』の決断、それは『マナ』と『ヨミ』が作った最初の兄弟星を大宇宙の端へ捨て去るという事だった。不安定な核の惑星は『タオ』にいわせばグニャグニャのクラゲのようなもの、『ゴリアンクス』『ルノクス』はともに失敗作だった。次第にコアもしっかりしてきた惑星になった。他の星と同様に知的生命体が生まれていた、それを『ムシビト』と呼んだ。彼らの特異な変態という能力に興味をもっていた『タオ』だったが、次々と生まれる惑星達に比べやはり星自体が不安定だったのだ。『マナ』は創造主として『ムシビト』も一緒に見捨てるのは忍びなかった。もう一人の創造主『ヨミ』は『ムシビト』などに興味もなかった。彼が唯一興味があったのは『マナ』にだった。『マナ』とヨミには余計な感情は一切ない。そう作ったのが他ならぬ『タオ』だった。それなのに『マナ』に厄介な感情が目覚め始めたのだー
「もう、いいではないか。『ムシビト』もまたわしらが作ったものだ、何故こだわる。他の星にもさらに進んだ、美しい知的生命体はいくらでも生まれている」
「でもそれはあの星の『ムシビト』ではありません、『ヨミ』様あの星を作ったのは確かに私たちです。でもそれからの事は彼らが自ら掴んだ未来なのです」
『タオ』は『マナ』に確実に愛の感情が目覚め始めたのを感じた。それは『タオ』の予側通りだった。そして『ヨミ』にもやがてそれに反する感情が目覚める。大宇宙を創造し、知的生命体が生まれる、最期に『マナ』と『ヨミ』を大宇宙の隅々まで広める。それがタオの造物主としての仕上げだった。
(うむ、そろそろ『ヨミ』を目覚めさせる頃合いだ)
「よし、わかった『マナ』よ。『ムシビト』の未来は、彼らに任そう。わしの目には届かないもっとも辺境の空間に捨てるだけにしておこう。だがお前に目覚めてしまった感情『愛』は、いつかわしの脅威になる、残念だがお前もまた失敗作だったようだ」
『タオ』はそう言うと『マナ』を側に呼んだ。
『ヨミ』が『マナ』の腕を掴み、それを制そうとした。
「バチチッ」
互いに反物質で作られた身体は触れてはならない。その禁を『ヨミ』は無意識に侵したのだ。まばゆい光とともに『ヨミ』の右手首が消え去った。
「『ヨミ』様、ありがとう。その右手の感触、それがあなたの『愛』なのです」
そう言い残し『ヨミ』の目の前で『マナ』はこなごなに砕け散った。それからの記憶は彼には失せている。
気がつくと右手首は元に戻っていたが、暗い空間に縛り付けられていたままだった。
「『ヨミ』お前もまた失敗作だった」
彼の肉体はすでに無い事を告げると、『タオ』は二度と彼の前に現れなかった。
右手の感触、たった一握りの『愛』が彼のすべてを一瞬で奪ったのだ。
「あなたは、私が『タオ』様の怒りに触れ、こなごなに砕かれたと思っていらっしゃるのね。でもそれは違います、私は『タオ』様によって次の使命を与えられたのです。この大宇宙の生命それぞれに光を分け与えるようにと」
『マンジュリカーナ』は口伝を続けた。
「惑星『ルノクス』は私が、そして『ゴリアンクス』はあなたが作りました。『ルノクス』に私の光をより多く集める王女が生まれたのは、決して偶然ではなかったのです。そう『ゴリアンクス』にあなたの闇を受け継ぐ『ゴラゾム』が生まれたのも同じです。『光と闇』それはともに存在し、正邪、優劣などない。『タオ』様のおっしゃられた通りです。それに……」
「ええいっ、うるさい!」
『ヨミ』は空中に浮かんだ『マンジュリカーナ』を睨んだ。『マナ』になり代わってそこまで口伝すると彼女は力尽き、ゆっくり円を描きながら『カブト』の待つ地上に落ちていった。
「小娘、余計な事を思い出させた代償は高くつくぞっ!」
『ヨミ』は怒りをあらわにし、なっぴに切り掛かる。それをかわす度『七龍刀』が打ち込まれる。尻尾、腕、足、胴体さえまっぷたつにしてもたちまち再生してしまう『ヨミ』、本当に『末魔』は存在するのだろうか?『ヨミ』は、不死身ではないのだろうか? となっぴは思った。そのとき『テンテン』の声が片方のコマンダーから聞こえた。
「なっぴ、『ヨミ』にも確実にダメージがあるわ。見て」
なっぴの目の前で再び切り落とした尻尾が再生していく。
「再生のスピードが以前の八十八パーセント。いけるかも!」
『リンリン』の声だ。少しづつだが確かに動きも鈍く感じる。
「これが『七龍刀』の力、わかった。これの使い方」
「なっぴ、気づいたのね、『七龍刀』の使い方、『虹の戦士』の戦い方を」
『カブト』の腕の中で『マンジュリカーナ』が微笑んだ。
「何度切り裂いても俺は再生する、しかしお前は切り裂かれればそこまでだ。勝負は見えているぞ、もう一人として巫女も残っていない、王だってそうだ、わずかに生き残ったもののために異界のお前が何故そうまでする。いや、これは愚問だな、『レムリア』のため、愛する『ムシビト』のため、お前はそういうのだろう?」
なっぴは『七龍刀』を頭の上でゆっくり『8の字』を書くように回し始めた。
「ほんのさっきまではそう思っていた。でも今は違う……」




