虹の戦士と七龍刀
「お前の言う通り、私は見習い『マンジュリカーナ』だ、大切な人をすっかり忘れていた」
なっぴはにっこり笑うと高らかに叫んだ。
「『マンジュリカーナ』召還!」
『マンジュリカの玉』から現れたのは、巫女姿のなっぴの母、『万寿香奈』だ。
「やれやれ、本当にギリギリね、なっぴ」
「お前が『マンジュリカーナ』だと、異界に身体を残したままで何ができる」
「そうねえ、この程度かしら? 『リカーナ』『トレーニア』『アロマリカーナ』そして『リカ・マンジュリカーナ』召還!」
四人の巫女が『香奈』によって呼び出された。『ヨミ』はうなった。
「ウググッ、これだけの巫女を呼び出せるとは…… 。しかし俺の大いなる闇に勝てるかな?」
「闇を照らすのは、希望の光。闇も包み込む大いなる愛、それが『マナ』。貴方の唯一恐れるもの…」
「クククッ、たかが巫女が揃った所でこの俺を倒せると思っているとはおめでたい。俺には傷ひとつ付けれるものかっ!」
「そうかしら?『テンテン』、『リンリン』どうなの?」
「はい、確かに『ヨミ』には弱点が無い様です」
『リンリン』が答えた。
「二人の今までの攻撃はダメージをほとんど与えていません」
『テンテン』も同じ答えだ。『香奈』はなっぴを見つめた。
「どんなに強靭なものでも必ず壊れる場所がある、末魔という場所。そこを突かれると激痛が身体を駆け巡り、自らが崩壊してしまう、そんな場所がきっと『ヨミ』にもあります。さあ私を着床しなさい、そして戦うのです。今こそ虹の戦士となって」
なっぴは大きく頷いた。
「『マンジュリカーナ』着床、『メタモルフォーゼ』!」
母『香奈』の召還した、歴代の巫女までも着床し、なっぴは『虹の戦士』として『ヨミ』に対峙した。しかし『ヨミ』の『マルマ』はどこにあるのだろうか、なっぴはキューを握り直した、その側に由美子が寄り添った。
「なっぴ、これを扱えるのは『虹の戦士』だけ。私も一緒に連れて行ってね」
由美子はそう言うと『インディゴ・ソード』をなっぴに渡した。次の瞬間、彼女はなっぴの視界から消えた。『ブルーストゥール』が彼女から、はらりと剥がれてソードに吸い込まれ、由美子の『生命エネルギー』が結晶してソードを包み込んだ。七つの刃を持つ、炎に似た『七龍刀』がなっぴの両手にしっかりと握られた。魂を失った由美子の身体はゆっくりと地上に向かって落ちていった。
「お願い、『ドモン』、優しく由美子を受け止めてね」
『ダゴス』達、『マンジュリカーナ』そして『カブト』の前に、再び『虹の戦士』の姿が現れた。『レムリアの子』達はもうすでに、ひとりとして残ってはいない。なっぴは『七龍刀』の感触を試すため一振りした。凄まじい風とともになっぴの右にあった一つの山が吹き飛んだ。
「クックックッ、いいぞいいぞその力はまさしく、わしの求めていた『マンジュリカーナ』に相違ない。さあわしのものになれ!」
『ヨミ』が掴もうとした指をなっぴは交わし、即座にその手首を切り落とした。
「グウ、切れ味は増しているようだな、しかし、わしも力を増しているぞ!」
そう言うとヨミは、右腕を軽く振った。
「ムン」
あらたな手首が再生した。なっぴは驚きもせず『ヨミ』に言った。
「何故、私を狙うの?『レムリア』を滅ぼしたら貴方は消え去るのでしょうに?」
「そうとも、だから『ビートラ』は『生命エネルギー』そのものを俺にぶつけ、『マンジュリカーナ』は『レムリアの子』達の『生命エネルギー』を集結したその『七龍刀』を振り、ついにわしは敗れたのさ。全く、恐ろしいヤツだったよ『ゴラゾム』という男は……」
『七龍刀』を構えたまま、なっぴは『ヨミ』の話しを聞き続けた。
「ヤツはわしと取り引きした、すべてを差し出す代わりに『レムリア』に残ったヤツらに新たな『生命エネルギー』を再び与え、新しい未来を与えよとな。わしは『タオ』により、闇に封印されていた。この宇宙ができて気の遠くなるほどの間、ずっと一人で……。封印された理由などどうでもいい事だ。ただ無性に愛、『マナ』と聞くと体中に怒りが溢れてくる。そんなつまらぬものにヤツは命を捨てたのだ」
「愛はつまらぬものではないわっ」
なっぴは素早く『七龍刀』を振り、『ヨミ』を袈裟がけに切った。確かな手応えとともに、『ヨミ』の体は左右に切り分けられた。
「グルルルッ、せっかちだな。まだ続きがあるというのに……」
二分された『ヨミ』の身体は、再びくっつき、何事も無く話しを続ける。
「ヤツの身体を手に入れたことで、わしは完全に復活したはずだった。これでわしを封じ込めた『タオ』に復讐できるはずだった。しかし、ヤツは自分の持つ呪力を全て使い、まえもってこの体にこうかけておった。『レムリア』滅ぶとき、我が肉体もまた滅ぶ、とな。『ビートラ』『リカーナ』に続く『レムリアの子』が一人欠けるごとに、それは現れるとな」
「それならなおさらの事、『レムリア』を襲う事はできないでしょう?」
「それほどまでにこの『レムリア』が大切なのは何故だと思う? ヤツは立派な国王だからか? 違うな、ヤツにとっては『リカーナ』と『レムリア』は同じ意味だったのさ、正確に言うとヤツのたった一人の娘、『マンジュリカーナ』を何としても守りたかったって訳さ」
「じゃあ、もし『レムリア』を滅ぼしても」
「そうさ、お嬢ちゃんをわしが取り込みさえすれば、こんな国なんか、木っ端微塵になってもまったく構わないのさ。ハッハッハッ」
何故『ヨミ』が執拗にこの国を襲うのか、なっぴはようやく理解できた。完全復活をしたあと『ヨミ』が何をしようとしているのか、なっぴは知りたかった。
「貴方は、完全復活したあと何をしようとしているの?」
「特別に教えてやろうか、新しい『マンジュリカーナ』よ……」
そのとき天空から声がした。初めて聞く声のはずだが彼女の耳にはそれは心地よく響いた。
「もう、やめてください。『ヨミ』様」
その声は地上の『マンジュリカーナ』が空に舞い、そう口伝したのだった。
「その声は、まさか『マナ』、『マナ』なのかっ!」
その問いに返事はなかった。
「……しかし、わしの決断を変えるつもりはない!『マナ』それがお前の頼みでもな」
「でも、彼らは選ぶはずです。自らの未来を……」




