由美子再び
「えいっ、やぁ!」
妖刀をかいくぐり、なっぴは何度も斬りつける。しかしやっと剥がれた鱗さえ再生してしまう。そして『ヨミ』の妖刀は容赦なく打ち込まれるのだ。
「教えてやろう、希望の後にお前達が出会うのは最大の絶望。それが大いなる闇、わしの事だ」
次第に追いつめられるなっぴ、『ヨミ』は必死に その妖刀をよけるなっぴの姿を楽しんでいる様だった。由美子はもう我慢できなかった。『スカーレット』はそんな由美子を見て、ついにその目で促した。
(行きなさい由美子…)
外部からの衝撃から『虹のほこら』を守っていた、巫女達もついに決断した。
「行きます、もう一度。パピィ着装、メタモルフォーゼ・アゲハ」
『ブルー・ストゥール』が由美子を包み、その繭の中で由美子は再び空色のコマンド・スーツに身を包んだ。『ブルー・ストゥール』が再びほどけると、待ちかねていた由美子はふわりと宙に舞った。
「由美子、なっぴを救うのです、さあ私たちの命を使いなさい」
『ラベンデュラ』『スカーレット』『バイオレット』『ヴィオラ』『アイリス』と、五人の巫女は次々と倒れていった。彼女達から抜け出た『生命エネルギー』は勢いよく渦を巻き、ひとつに結晶すると『アゲハ』を追ってほこらから出た。しかしそれについで大音響が響く。
「ドガガガガーン……」
支えを無くしたほこらの天井が、一斉に落ちる、誰一人逃げる間もなかった。
「お母様、みんな……」
大音響とともに、ほこらが塞がり、土煙が虹の池まで吹き出た。『アゲハ』は五人の巫女の『生命エネルギー』の結晶を受け取るとそれを『インディゴ・ソード』に納めた。まだ土煙の収まらない、『虹のほこら』の最期を水色の瞳にもう一度焼き付けたとき、彼女の涙はやっと止まった。なっぴもその異常に気づいた。
「ほこらが、みんなが……」
それを見た『ヨミ』はこうあざ笑うのだった。
「ファッハッハ、とうとう潰れたか。仲良く骨までぐちゃぐちゃだろうよ」
「もう、私の力では『ヨミ』を倒す事はできない。ごめんね、みんな……」
「なっぴ、諦めちゃだめ!」
近づく青い光がなっぴに届いた。
「由美子!どうしてここに?」
「『レムリア』は愛する私の国だから、それが理由よ」
その背後からもう一人が声を上げた。
「なっぴに『レムリア』の希望を集めろってさ」
「ピ・ピッカー?」
振り返る由美子の目に、みんながほこらから這い出して来るのが映った。巨大な岩盤を持ち上げたまま、四人の王が通り道を確保しながら、出口に着いたのだ。先頭は『ドモン』そして『ダゴス』。二人の間にはとっさに編まれたのに違いない『ハンモック』。その中に五人の巫女と動けない仲間が包み込まれていた。『ドモン』の足も『ダゴス』のそれも数本は岩で無残に潰れていた。顔は土だらけだ、だが皆の瞳は輝きを少しも失ってはいなかった。
「愛? 希望? あのいまいましい『マナ』の口癖を思い出すではないか、やめろやめろ。無駄な事だ」
「『レムリア』は滅びはしない、くらえっ」
『ピッカー』がラペを『ヨミ』の額にみごとに刺した。『ヨミ』は『ピッカー』ごとつかみそれを引き抜くと、地上に投げつけた。彼は動かなくなった。
「蜂が刺した程度で、俺様が倒せるものか、虫けらめが!」
「えいっ!」
由美子がソードを数度振るった、しかし『ヨミ』の身体は全てそれを跳ね返す。なっぴが背面を『バィオレット・キュー』で突く、しかし微動だにしない。
「ゲハハハッ、また繰り返すのかい?何度やっても俺の大いなる闇の力には勝てないのさ」
「俺たちの『生命エネルギー』を使え!」
『キング』『ラクレス』『コウカ』『エレファス』から『生命エネルギー』が抜き取られそれが再結晶した。それは『レッド・ホーン』よりも巨大な結晶だ。
「二人とも頼むぞ、『レムリア』を救ってくれ」
『バイス』と『ドルク』からは『オレンジ・バイス』よりも一段と鮮やかな橙色の結晶が現れた。『ガマギュラス』も、緑の結晶と引き換えにその場に倒れた。『ピッカー』は身体から黄色の結晶が抜けると再び動き始めた鼓動も停止した。
「ほう、アゲハのもとに『七龍刀』が揃ったようだな。しかしそれは『マンジュリカーナ』にしか使えまい。実体をもつ『マンジュリカーナ』だ。見習いのお嬢ちゃんじゃ無理だろうなぁ、さあ苦しまないようにひとひねりにしてやろう」
アゲハは、『七龍刀』を納めたソードで、『ヨミ』の胸を繰り返し突くが傷ひとつ付かない。なっぴも同じだ、首も脇も顔もキューで突いたがびくともしない。このままでは『ヨミ』につかまるのも時間の問題だ。なっぴは万策尽きたと思いかけた。その時、額のティアラの『マンジュリカの玉』が輝いた。
そうか、私は『ヨミ』の言う通り、まだ『マンジュリカーナ』の見習いなんだった……。




