表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なっぴの昆虫王国  作者: 黒瀬新吉
102/112

由美子再び

  「えいっ、やぁ!」

妖刀をかいくぐり、なっぴは何度も斬りつける。しかしやっと剥がれた鱗さえ再生してしまう。そして『ヨミ』の妖刀は容赦なく打ち込まれるのだ。

「教えてやろう、希望の後にお前達が出会うのは最大の絶望。それが大いなる闇、わしの事だ」

次第に追いつめられるなっぴ、『ヨミ』は必死に その妖刀をよけるなっぴの姿を楽しんでいる様だった。由美子はもう我慢できなかった。『スカーレット』はそんな由美子を見て、ついにその目で促した。

(行きなさい由美子…)

外部からの衝撃から『虹のほこら』を守っていた、巫女達もついに決断した。


「行きます、もう一度。パピィ着装、メタモルフォーゼ・アゲハ」

『ブルー・ストゥール』が由美子を包み、その繭の中で由美子は再び空色のコマンド・スーツに身を包んだ。『ブルー・ストゥール』が再びほどけると、待ちかねていた由美子はふわりと宙に舞った。

「由美子、なっぴを救うのです、さあ私たちの命を使いなさい」

『ラベンデュラ』『スカーレット』『バイオレット』『ヴィオラ』『アイリス』と、五人の巫女は次々と倒れていった。彼女達から抜け出た『生命エネルギー』は勢いよく渦を巻き、ひとつに結晶すると『アゲハ』を追ってほこらから出た。しかしそれについで大音響が響く。

「ドガガガガーン……」

支えを無くしたほこらの天井が、一斉に落ちる、誰一人逃げる間もなかった。

「お母様、みんな……」

大音響とともに、ほこらが塞がり、土煙が虹の池まで吹き出た。『アゲハ』は五人の巫女の『生命エネルギー』の結晶を受け取るとそれを『インディゴ・ソード』に納めた。まだ土煙の収まらない、『虹のほこら』の最期を水色の瞳にもう一度焼き付けたとき、彼女の涙はやっと止まった。なっぴもその異常に気づいた。


 「ほこらが、みんなが……」

それを見た『ヨミ』はこうあざ笑うのだった。

「ファッハッハ、とうとう潰れたか。仲良く骨までぐちゃぐちゃだろうよ」

「もう、私の力では『ヨミ』を倒す事はできない。ごめんね、みんな……」

「なっぴ、諦めちゃだめ!」

近づく青い光がなっぴに届いた。

「由美子!どうしてここに?」

「『レムリア』は愛する私の国だから、それが理由よ」

その背後からもう一人が声を上げた。

「なっぴに『レムリア』の希望を集めろってさ」

「ピ・ピッカー?」


 振り返る由美子の目に、みんながほこらから這い出して来るのが映った。巨大な岩盤を持ち上げたまま、四人の王が通り道を確保しながら、出口に着いたのだ。先頭は『ドモン』そして『ダゴス』。二人の間にはとっさに編まれたのに違いない『ハンモック』。その中に五人の巫女と動けない仲間が包み込まれていた。『ドモン』の足も『ダゴス』のそれも数本は岩で無残に潰れていた。顔は土だらけだ、だが皆の瞳は輝きを少しも失ってはいなかった。

「愛? 希望? あのいまいましい『マナ』の口癖を思い出すではないか、やめろやめろ。無駄な事だ」

「『レムリア』は滅びはしない、くらえっ」

『ピッカー』がラペを『ヨミ』の額にみごとに刺した。『ヨミ』は『ピッカー』ごとつかみそれを引き抜くと、地上に投げつけた。彼は動かなくなった。

「蜂が刺した程度で、俺様が倒せるものか、虫けらめが!」

「えいっ!」

由美子がソードを数度振るった、しかし『ヨミ』の身体は全てそれを跳ね返す。なっぴが背面を『バィオレット・キュー』で突く、しかし微動だにしない。

「ゲハハハッ、また繰り返すのかい?何度やっても俺の大いなる闇の力には勝てないのさ」

「俺たちの『生命エネルギー』を使え!」

『キング』『ラクレス』『コウカ』『エレファス』から『生命エネルギー』が抜き取られそれが再結晶した。それは『レッド・ホーン』よりも巨大な結晶だ。

「二人とも頼むぞ、『レムリア』を救ってくれ」

『バイス』と『ドルク』からは『オレンジ・バイス』よりも一段と鮮やかな橙色の結晶が現れた。『ガマギュラス』も、緑の結晶と引き換えにその場に倒れた。『ピッカー』は身体から黄色の結晶が抜けると再び動き始めた鼓動も停止した。


 「ほう、アゲハのもとに『七龍刀』が揃ったようだな。しかしそれは『マンジュリカーナ』にしか使えまい。実体をもつ『マンジュリカーナ』だ。見習いのお嬢ちゃんじゃ無理だろうなぁ、さあ苦しまないようにひとひねりにしてやろう」

アゲハは、『七龍刀』を納めたソードで、『ヨミ』の胸を繰り返し突くが傷ひとつ付かない。なっぴも同じだ、首も脇も顔もキューで突いたがびくともしない。このままでは『ヨミ』につかまるのも時間の問題だ。なっぴは万策尽きたと思いかけた。その時、額のティアラの『マンジュリカの玉』が輝いた。


 そうか、私は『ヨミ』の言う通り、まだ『マンジュリカーナ』の見習いなんだった……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ