見習い「マンジュリカーナ」
左右のコマンダーがなっぴの両耳にかぶさる。彼女のシナプスが急激に伸びる、メタモルフォーゼ・システムの全てのコマンドがシンクロナイズした。
「メタモルフォーゼ・レインボー」
それを見て誰よりも驚いたのは『マンジュリカーナ』だった。
(なっぴ、あなた何故戦うの? 『ヨミ』を倒すには『マナの力』がもっともっと必要なのよ。それに七龍刀さえないのに)
「私に流れる『マナ』が叫ぶの、闇に負けないでって。何度も何度も、それに『レムリア』の次は私たちの世界にこいつは必ずやってくる、私が何としてもここで食い止めなければ」
『マンジュリカーナ』が着床していたためなのか、なっぴは空を自由に飛ぶ事を覚えていた。一直線に巨大な『ヨミ』に向かって行くなっぴ。ほこらを支えている巫女達は、なっぴの勝利を祈るしかなかった。
「なっぴ、頑張って」
『サフラン』となった由美子は、ほこらに運び込まれた四人の王を回復させることに集中しなければならなかった。戦いをやめた彼女の目に、離れた場所に置かれた、青いストゥールが映る。その輝きが目にしみて由美子にはなにより辛かった。
「まだ飛び回れる虫けらがいるのか、相手をするのも面倒だな……」
そう言うと『ヨミ』はどかっとその場に座りこんだ。
「完全に舐められてる、見てなさいっ!」
なっぴは『レインボー・キュー』を握り直して、『ヨミ』の胸を突く。それは渾身の一打だ。
「ウゲャアアアアアアーッ」
『ヨミ』は大声で叫んだ。しかし微動だにしない。
「声くらいはサービスしとくよ、お嬢ちゃん。ゲハハハッ」
なっぴはキューを今度は『バイオレット・ランス』に変形させると『ヨミ』の目を突いた。『ヨミ』は深海の水圧や高温のマグマ流の中でも自在に泳ぐことができる『リュウグウ』の姿だ。その瞬間、目を保護する分厚いまぶたを閉じた。
『キン』
さすがのランスもはじかれる、今度は『レインボー・ソード』に変形させ何度も斬りつけるなっぴ。しかし目前の敵は完全復活の『ヨミ』だ。『カブト』でも、この身体を傷つける事はもうできないかもしれない。
(なっぴ、あなたでは歯が立たない、おやめなさい。今なら『ヨミ』はあなたを見逃す、でも『ヨミ』が『そのこと』に気付いたらきっとそのままでは済まない)
『マンジュリカーナ』にはそれが気がかりだった。
「何度やっても同じさ、わしを倒せるものか。『マンジュリカーナ』でなければ、いや『虹の戦士』でなければな、勇ましいお嬢ちゃん、ゲハハハハッ」
なっぴはそれを聞くと一度深呼吸をした。
「『ヨミ』、『虹の戦士』ではないけれど私には『マンジュリカーナ』の血が流れている。そして私にこういうのよ、あなたを止めなさいってね」
なっぴはそう言うと、ソードを振り下ろしヒゲの一本をやっと切り落とした。切り落とされ、不気味にうごめく自分のヒゲを足で踏み付け、ムクリと巨体が立ち上がった。
「お前が『マンジュリカーナ』の血を引くものだと?見たところ王国のものではないな、いままで異界にいたという訳か『ヒト』として……」
『ヨミ』は切り落とされたヒゲが再生したのを確認すると、切り落とされたヒゲを掴んだ、するとそれは少し反った妖刀に変わった。
「それが本当ならば、見習いの『マンジュリカーナ』でも、少しは足しにはなるだろう、お望み通り相手をしてやろう」
いうや否や、妖刀が光った。なっぴがかわした場所の岩がこなごなに砕け散った。さっきとは明らかに異なる『ヨミ』の目つきにさすがのなっぴも負けそうだった。




