カブト
「ペリリリッ」
一つに溶け合い、そして白い繭を作った『バイス』と『カブ』。その二人の王子が融合した褐色の蛹は、遂にその背中が割れた。待ちかねていた『黄金のカブト』は『マンジュリカーナ』の目前を飛び上がると、まだ色の白い寄り代に吸い込まれていった。
「『カブト』降臨!」
若き日の大王『カブト』が『レムリア』に現れた。ゆっくり起き上がった彼は、傷だらけのムシビトたちを確認すると、虹のほこらから外に出た。
「王宮もエビネ池も美しいままだ。『マンジュリカーナ』そして『レムリアの子』たちよ、王国はあの頃のままだ。『ヨミ』お前にはこの王国は似合わない」
右手に光る黄金のマスク、彼はそれを鮮やかに装着した。
「メタモルフォーゼ・カブト!」
ここに『レムリア』の大王が『ヨミ』の前に姿を現した。
「ほほう、寄り代を手に入れたのか。わしに『ビートラ』直伝の腕前を、今一度見せてみるがいい」
そう言い放つと『ヨミ』は『イト』の身体をブルンと震わせた。巨大な二つの塊がぶつかる。さすがに『ヨミ』は『カブト』をはじき飛ばす事はできない。体格差のある『カブト』が一歩も引かない事が『ヨミ』には不愉快だった。
(生意気なヤツだ、その身体のどこにそんな力があるのだ?)
『カブト』は力を抜き、『ヨミ』が突進する力を使い、後方へ投げ飛ばした。起き上がろうとする『ヨミ』ののど元に『カブト』の巨大な角が打ち込まれる。
「ガキッ」
それを『ヨミ』は大アゴで受け止め、『カブト』の腹をけり飛ばそうとした。しかしその右足は腹に届く前に彼の両手で掴まれていた。
「フン!」
掴んだ『ヨミ』の右足を『カブト』は持ち上げる、後ろへひっくり返そうというのだ。『ヨミ』は左の足でもう一度『カブト』を今度は確実に蹴り飛ばした。
「ウッ」
『カブト』は短く声を上げた。しかしまた、『ヨミ』も地面にひっくり返った。
「グオッ、やるな」
地響きとともに『ヨミ』の巨体が初めてまともに地面に倒れた。起き上がった『ヨミ』の前には既に『カブト』が現れ『ヨミ』をなんなく担ぎ上げると、再び地面に叩き付ける。
「グゲッ、お、おのれっ!」
掴み掛かろうとした『カブト』の手をとり、今度は『ヨミ』が後方へ投げ飛ばす。互角の戦いぶりに、大ゾウムシの『ミネス』がつぶやいた。
「大王は『イト』に負けはせん。この国を救ったのじゃからな……」
一進一退の巨大なカブト同士の戦いに、周囲から再び暗雲が集まりはじめてきた。
「バキッ」
とうとう『イト』の大アゴが『カブト』の拳で砕かれた。『ヨミ』は肩を固められて膝をついた。『カブト』は再びこの国を『イト』から守り抜いたと、誰もがそう思った。
「グルルルルン、『カブト』よ、認めよう。お前は確かに『ビートラ』に勝るとも劣らぬ大王だとな。ただしそれはカブト族の戦いにおいてだが」
そう言うと『イト』は背から緑色の液体を噴き出す、強烈な酸がカブトを襲う。それは『カブト』の目を焼くのに十分なものだった。
「うっ、卑怯なっ!戦いに毒液とは」
両目を抑えた『カブト』を背後から『イト』が蹴り飛ばす。そしてうつ伏せに倒れた彼の背中に『イト』は全ての体重を肘にのせて、思い切り倒れ込んだ。鈍い音が周囲に響いた。
「ふあっはっはっ、『カブト』の背骨を折ってやった。しばらくは動けまい、忘れたか、わしは全ての闇を司る『ヨミ』である事を」
しかし起き上がった『ヨミ』は、自分のふらつく足元に、ダメージを感じた。
「さすがに『ゴラゾム』の身体にもガタが来たようだな、『レムリア』の虫けらどもに見せてやろう、わしのもうひとつの姿を」
『イト』は『深海型知的生命体』『カイリュウ』に似た容姿に変態した。その姿はもちろん誰も見た事のない姿だった。なっぴに着床していた『マンジュリカーナ』はたまらず『カブト』の側に駆け寄った。それをみて『ヨミ』はあざ笑った。
「ゲフフフッ、残念だな、『マンジュリカーナ』お前も既にこの世のものではあるまい、わしを倒す術はないだろう。さあ、お前の血を受け継ぐものはどこにいる、異界にでもかくまったか?」
彼女は悔しさに震えた、『ヨミ』の言った通りだ。再び『虹の戦士』として戦うには『マナの力』が足りないのだ。その力の源は生命エネルギー。既に実体のない彼女には溢れ出るほどのその力はなかった。『ヨミ』に対抗できるのは唯一『マナ』を身にまとった『虹の戦士』しかいない。彼女は悔しさに震えた。
「す、済まない。マンジュリカーナ……」
『カブト』のその声を聞くと、『マンジュリカーナ』はたまらずにとうとうなっぴから分離した。なっぴは一部始終のやり取りを聞いていた。目の前に倒れたままの伝説の大王、ほこらで必死に勝利を信じているみんな、武器を捨て『リンリン』を救ってくれた由美子、『マンジュリカーナ』の『レムリア』を思う心……。
なっぴはためらいもせず、右手を天に上げた。




