火種
パトリシア・チェラストラ。
彼は現在一大陸規模で行われている戦争の中を歩む詠唱魔法士。愛称はステラ。
まず詠唱魔法士という職業自体珍しいもので、そう簡単になれるものでもない。詠唱失敗時の周囲へのダメージ、身体的、精神的にくる負担もとても大きい。そんな彼はよく聞かれることがある。
「ステラさんはなぜ詠唱魔法士になったんですか?」と。
彼は答える度に思い出す。いまだ齢19と若干にして送られてきた壮絶な人生を。
◆
ステラがまだ5歳の時だった。突然隣国との国際的支援が問題になり、事態は深刻化。彼の国と隣国間で戦争が勃発したのである。ステラの住む地域も戦争に巻き込まれ、避難命令が出された。ステラの家族は両親とステラの3人家族で、父親のパトリシア・ジョナサンは軍人であり、この戦争に駆り出されていた。ジョナサンがいない中、母のミーシャは女手一つでステラを守りつつ家事をこなしていた。
ある日、ステラとミーシャが夕食をとっていた時のことだった。ミーシャが珍しく食器を落としてしまい、破片で指を切ってしまった。ミーシャはその後も少し何かに脅えていて、ステラがしばし慰めていた。外が戦争中なこともあり危機感を常に身にまとい生活している彼らのもとに、来客が訪れる。
ピンポーン、と玄関からチャイムが響く。
「僕行ってくるね!」
「きちんとこんばんは。って言うのよ、ステラ。」
「はーい!」
ステラがドアノブを開くと、その先には郵便配達業者がいた。
「こんばんは。配達しているファガンと言います。御家族の方はいらっしゃるかな?」
「こんばんは!僕ステラ!お母さん呼んでくるね!……お母さん!お届けものだよ!」
「あら、何かしらね、頼んだ覚えはないのだけれど。」
そう言いつつミーシャは玄関に来た。
「あら、お疲れ様です。どうしたんでしょう?」
「実はですね・・・」
そう言って彼は仕事用のカバンから封筒をとりだした。
そこにあったのは赤い紙。かつて第二次世界大戦で大日本帝国という国で軍人召集用に用いられた人々に恐怖と悲哀をもたらす特別な紙だったらしい。しかしこの国では使用法が異なっている。〝亡くなった〟戦人の家族の元へ送られる、命の最終通知。
父、ジョナサンは戦死したのである。
「え……?」
突然の出来事にミーシャは戸惑う。
「すみません…御時世ということもあり、なんとも…渡しにくいのですが、私も仕事なので隠せなくて…。」
「あ、あの人は…亡くなったのですか?」
「はい、国の為に尊い命を捧げられた、と軍の方も仰っていました。」
この国の軍隊は直接紙を郵便局まで持って行き、伝言と共に渡す。それが約束だった。
「あ、ぁ……。」
現実がやっと見えてきたのか、少しずつ目に涙をため出したミーシャはついにその場で泣き崩れてしまった。
「なんであの人がぁ!死ななきゃ、ならないのよ…。あなたぁ…」
まだ結婚して5年。最愛の夫は息子を成人まで見送れることなく、逝ってしまった。
「奥さん…お気持ちはわかります…日に日に増していくこの赤紙を、私達も渡すのに心が苦しくなってきまして…ご冥福を祈ります。」
ミーシャは落ち着いてくると、口を開いた。
「そんな気がしました…」
「え?」
「そんな気がしたんです…夕食を食べてる時に…なんか大切なものを失ったみたいで、わからない恐怖に襲われたんです…。」
「虫の知らせってやつですか…。」
そう言ってファガンはハンカチを取り出す。
「奥さま、涙を拭いてください。」
「わざわざありがとうございます。忙しい時にこんな…。」
「いえいえ、これは紳士として当然のことです。」
では私は次の所へ。
そう言って彼はバイクに乗って配達に行った。
「お母さん、どうしたの?」
「いい、ステラ。お父さんはもう帰ってこないの。遠い遠いところにいってしまったのよ。会えなくても我慢できる?」
ステラはコクリと頷き、
「うん。」
と言った。
初めまして。
初めての小説です。
ステラという青年のお話です。
今までにないところから出してみたつもりなのですがどうでしょうか。
読んでいただいた方は、ぜひコメント等お願いいたします。
作者は力を込めたのですが、かえって読みにくいかも知れません。すみません。(笑)
まだ続くので、皆様に見てもらえると嬉しいです。