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あの頃の日々

ふと思い付いて書いてみました。

恋愛物は初ですが、読んでいただければ幸いです。

よろしくお願い致します。

ふと、目を覚ました。


隣を見ると、いつもの様に彼女が横で静かに寝息をたてている。


その彼女の髪を、起こさないようにゆっくりと撫でながら僕は…………












僕らが出会ったのは、まだ高校生の頃。


同じ学校に通い、たまたま同じクラスになり

たまたま話したのがきっかけで仲良くなった。


彼女は高校の寮に住んでいて僕はいつもバイトの日々。

ほとんど時間は合わないが、バイトに行く前やバイトが終わってから寮の門限になるまでの僅かな時間に、僕らはよく会うようになった。



付き合うようになったのは、何がきっかけであっただろうか。


どちらともなく想いを伝え、それが当然のように付き合う道を選んだ。

毎日忙しい生活であったが、本当に幸せだった。



僕がバイトをしていたのには理由がある。

当時の僕の家は貧しく、親の稼ぎだけではとても暮らしていくことができない状況だった。


バイトで稼いだお金を家に入れ、僅かに残ったお金が僕の小遣いになる。

当時は辛かったが、今に思えばしょうがないことであったと思う。


そんな中で彼女と知り合い、彼女らと一緒にいる時間は僕にとって、とても安らぐ時間だった。





高校3年生になり、周りは受験ムード一色になっている。

家が貧しい僕は、当然の事ながら就職を選ぶことになった。







僕には音楽の仕事をしたいという夢があった。

音楽と言ってもプレイヤーの方ではない。

夢を叶えたミュージシャンを支える存在、裏方としての仕事をしたかったのだ。


一つのステージを皆で造り出していく。

その仕事に魅力を感じ、やってみたいと幼い頃から憧れていた。



幸いな事に地元で良くしてくれていた歳上の方が、昔そういう仕事をしていたという事で当時の同僚を紹介してくれた。


地元は田舎でそういう仕事もない。

何より今の環境から逃げ出したい一心で、その話に飛び付いた。




彼女の事は気になった。

夢を叶えるために都会に出ようとしている僕を彼女はどう思うだろうか。


彼女は僕と違い、裕福とはいかないまでもごく普通の家で産まれている。

それとなく聞いたときも、進学を考えていると言っていた。

きっとこれで離ればなれになる。

寂しい気持ちはあるが、これもまたしょうがない事なのかもしれない。





そんな僕が彼女にこれからの事を伝えたとき、彼女は言った。




あなたがそこに行くのなら、私もそこに行きます

私は進学、あなたは就職

でも場所が違わなければいけないことはないでしょ?

知らない土地で独りで暮らすより、二人で居ましょう

新しい生活も楽しめば良いのよ



そう言ってくれた。









あれから数年


彼女はまた寮暮らしだったが、頻繁に僕の家に遊びに来てくれた。


そんな彼女を不安にさせないよう、僕は必死に働いた。

家に帰れない事も多くなったが、早く一人前になりたかった。

早く一人前になって、彼女を僕の元に迎えられるように。

その想いだけで、とにかく必死に働いた。




疲れて帰った時に、家で料理を作って待っていてくれる。

ただいま、と言ってもらえることが嬉しかった。

彼女の肌にふれている時が何よりも癒された。












好きな人が出来たと言われたのは、しょうがないことなのかもしれない。





僕は仕事ばかりになり、家に帰ることも少なくなった。

連絡をすることも減りデートも出来ない毎日。

喧嘩も少しずつ増えていき、すれ違いばかり。



その生活にも疲れていたのは、きっと彼女だけではなかったのだろう。












今でも、あの頃の事を思い出す。

横で眠る彼女の髪を撫で、頬に静かにキスをする。

そんな幸せだったあの頃の事を……








独りきりの部屋で起き、頬が濡れていることに気づく。


今日で彼女が亡くなって三年

意識していないつもりでも、どこか気にしているのだろう。


そんな自分に少し苦笑し、仕事に向かうために仕度をする。





一日が始まる。

彼女の居ない世界は、今日もくるくると、回り続ける

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― 新着の感想 ―
[一言] 時期外れかもしれませんが、失礼致します。 『私の日常の非日常』が最後まで読み切れなさそうなので、こちらを読ませていただきました。臆病で申し訳ありません。m(_ _)m 少しづつ物語の中に…
[良い点] 頭の中で映像が浮かびました。とても素晴らしかったです。 良いお話をありがとうございます。
2014/10/19 03:02 退会済み
管理
[一言] 昔の歌「木綿のハンカチーフ」で、ヒロインが主人公に付いて行ってしまった場合の情景を思い浮かべました。 寝床に潜った直後に、彼が彼女に「おやすみ」と唱える情景が浮かんでしまいます。
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