第3話 惨劇の開幕、誰何の声は何処へ消え
図書室の扉に手を掛ける。
指先に電流が奔り、慌てて扉から手を話す。
急に夢から覚めたように意識が鮮明になりーーー僕は、今も室内を満たしている蒼光に思考を巡らせた。
「何だよ、あの光……」
目一杯、室内をスポットライトで照らしているように蒼光が満ちていて、まるでそこだけ異世界のよう。
蒼光で室内を照らしている光源がある筈なのだが、眩しすぎて内部を伺う事が出来ない。
「ーーー中で演劇部が練習してるって訳でもないよな」
図書室のスペースは平均よりも広い方だが、それでも演劇が出来るほどのスペースはない。
演劇を行うのならば体育館など設備が整った場所で行うのが普通だろうし、そもそも、演劇部の活動場所は校舎裏の第二体育館だ。
「業者の人が頼まれて蛍光灯を換えてるのか……?」
しかし、室内の蛍光灯の交換、点検だけでここまで明るくなるものなのか。否、明るいなんてものじゃない。あれでは、まるでーーー
「望月の明るさを十あはせたるばかり……かな」
最近の古典の授業で登場した物語の内容が、脳裏に浮かぶ。午前12時頃になった時、家の周辺が満月の十倍くらいの明るさになり、月の使者が姿を現す。そして、月の使者はお爺さんとお婆さんの下からかぐや姫を連れ去ってしまうのだ。
「もしかして、月からの迎え……?」
首を振り、馬鹿な、常識外れな想像を頭から振り払う。そんな想像をした自分に呆れながらーーー僕は、事実を確認するべく扉に手を掛け、手前に引いた。
***
時は前後し、少し前にまで遡るーーー
結界を張り終え、一息つく。額にじっとりと浮いた汗を拭う。用済みとなった宝石を床に落とし、ローブの内ポケットから別の宝石を取り出した。
「 結界は張れた。後は、儀式の為の術式を描くだけーーー」
結界とは、外界と内界を隔てる境界。内部の者ーーーある事柄に関連する者と、外部の者ーーーある事柄に関係しない者を種別する境界面の事。例えば、事件現場に警察が張るバリケードテープも、ある種の結界と言える。
外部の者が結界を越えて内部に足を踏み入れる事は許されず。
故にこの場合も、外部の者が扉に接触すると、ある現象が起きるように為されている。
結界によって他の空間から隔絶された『異界』に、外界の者が侵入しようとすれば、蒼光によって描かれた魔法陣が発動し、ーーー
「認識を『図書室には用がない』に改めさせるように術式を組んでいるから、外界対策は大丈夫な筈……。大丈夫。出来る、成功する……!」
自分に喝を入れ、手に持った宝石を握りしめる。
腕を前方に突き出し、儀式に使う魔法陣を描く為、詠唱を口にする。
「Shel《私は》ーーー」
輝きが衰えた現象刻印が、また克明に輝き出す。先程の比でない量の魔力が荒れ狂い、魔法陣を描き始めーーー突然扉が開き、少年が室内に入ってきた。
「あれ、君は……?」
少年が口を開きーーーそして地獄が顕現した。




