第1話 波紋は広がり、螺旋は交わる
前回より長いです。
「幽霊を見たぁ?」
疑わしげに、友人の言葉を聞き返す。
「ホントだって。部活から帰る途中でよ。裏通りを歩いてたんだーーオレの家ってさ、裏通りの方が近いって悠は知ってるだろ。小走りで家に向かっていたらさ、ガス灯の向こうにぼやっと人影が見えたんだ」
僕の友人ーー葉月仁は興奮した様子で話し出した。
仁とは小学校低学年からの付き合いで、約9年間同じクラスで、尚且つ隣接した席だったという奇妙な偶然が続いている。
長身で、がっしりとした体型。剣道をやってて、現在ニ段。剣道部での態度が真面目で、普段とのギャップが凄くてカッコいいとは一部の女子の談。
一方僕は、中背で痩せぎみ。色白で撫で肩。女だったら彼女にしてるのにと仁に言われる体型。
その後、殴りかかったら倍返しに遭ったというのは今は良い思い出ーーな訳ないか。
ともかく、そういう奴なのだ。そんな性質な奴だから幽霊を見ましたなんて言われても、はいそうですかと納得出来る訳がない。
「ーーそれでさ、人影が声を掛けて来たんだよ。紺のローブを纏った男を見た事があるかって。薄暗い通りでだぜ?ヤバそうな奴だったから、無視してそのまま走り抜けたんだ。そしたら、すれ違い様ソイツは何て言ったと思う?」
「見えてるくせに、だろう?」
「そう。それ聞いた時、思わず振り返ったんだ。そしたらーー」
ここで仁は一呼吸分おき、続けた。
「誰も居なかったんだ!」
屋上で冷ややかな風が、仁と僕の間を吹き抜ける。
僕は黙ったまま、購買で買ったパンにかぶり付いた。
パンの中にあるジャム状のリンゴを味わいながら、ゆっくりと咀嚼する。
「おい、聞いてるか悠。居なくなったんだぞ、話し掛けて来た奴が。薄暗い裏通りから!」
「聞こえてるよ。終始居なかっただけだろ」
「どういう意味だよ?」
意味分からんと首をひねる仁。
「だから、元々ソイツは居なかったんだよ。全部仁の想像じゃないか?暗い中で、居もしない化け物を想像して怖がってた事、あったろ」
「んだよ、それは小さい頃の話じゃん。
この歳でそんな事有るわけないだろう」
いささか、ムッとした表情をした仁だったが、にわかに意地の悪そうな顔つきになり、ニヤリと笑った。
「何だよ、嫁の不手際を責め立てるような姑の顔をして」
嫌な予感に襲われ、仁に尋ねてみる。
「相変わらず変な表現ーーまあ、どうでも良いか」
僕の問いかけに呆れた顔になった仁だが、再び脣を歪め、笑う。
さらに胸騒ぎが酷くなるのを感じながら、僕は言葉の続きを促した。
「で、何だよ」
「帰り、悠も一緒に来て、オレの話を確かめれば良いんだよ」
仁の発言を締め括るかのように、昼休み終了を告げるチャイムがかすかに聞こえてきた。




