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「よく解らないです」
解りやすく話したつもりだったが、リルに即答されたマリアンは困惑しながら言葉を選び直す。
「つまり、そうですね…… 言い換えれば、レイヴァンはリルさんが奴隷であることを望んではいないということです」
「望んで、いない……? ということは、つまり嫌いってことですか? ご主人様はリルのこと嫌いってことですか!? 三年ほどお仕えしてきたのに、リルはずっと嫌われていたですか?」
大きな瞳を小刻みに揺らしながら、今にも泣き出しそうなリルに、マリアンは更に困惑した。
「ち、違います! そういう意味ではありません」
「……これも違うですか?」
「もちろんです。 レイヴァンがリルさんのことを嫌っているはずがありません。 私が言いたかったのはレイヴァンはリルさんを奴隷ではなく大切な仲間だと思っているということです」
「でも、ご主人様はリルを奴隷だと言ったです」
「それはリルさんを助けるために咄嗟に嘘をついたのだと思います。 そして、リルさんを蹴り飛ばしたのは、奴隷としての誓いを立てて欲しくなかったから…… 私はそう思います」
「マリーさんはどうしてそんなことまで解るですか?」
「どうしてって……」
マリアンは言葉を切り、すぐ近くのベッドで眠るレイヴァンを見つめた。
それからリルへと向き直ると優しく微笑む。
「それは、困っている人がいたら必ず助けるのがレイヴァンだと思うからです。 最も、何故か素直に手を差し伸ばしたり、言葉に出したりはしませんので…… そうですね、きっと、その時のレイヴァンは人一人を助けるぐらいで誓いを立てられるとは見くびられたものだとリルさんに怒ったのだと思います。 レイヴァンの性格については私よりもずっと長い間傍にいるリルさんの方が良く解っているのではありませんか?」
「……確かにです! 思い返せばリルはご主人様によく余計なことをするなって言われるです。 そういう意味だったんですね」
「それは単純に怒られているだけのような……」
思わずまた“違う”という言葉を使いそうになったマリアンだったが、寸前で気がつくと言葉を変えた。
呟いたせいか彼女には届かず首を傾げたので、敢えて繰り返さず一番伝えたかったことを口にした。




