~ 31 ~
「失礼過ぎるマスターで本当にすみません」
街を歩き出して間もなく鑑定士のマルコはフィーネに向かって頭を下げた。
「よくあることだし気にしていないわ」
場都合の悪い表情を浮かべる彼に対して、彼女は何事でも無いと笑顔を返す。
「それよりも私が謝らないといけないかも」
「何をですか?」
「かなり強引に連れ出した感じになっちゃったことや、今からのこと」
「……今からの?」
意味深に口を閉じられたマルコは続きとなる言葉を考えた。
すると浮かび上がるのは不安な事ばかり。
「ま、まさか、マスターの考えが正しかった!?」
彼が怯えながら声を上げるとフィーネは小さく吹き出す。
「断じて違うわよ。 私は正真正銘人間の女。 マスターが疑ったような毒は持っていないし、あなたを何処かに連れ込むようなこともしないわ」
その言葉を聞いて安堵したのか、マルコは次の質問を紡ぐ。
「ならどうして僕を誘ってくれたのですか?」
「気に入ったからよ。 さっきも言ったでしょ?」
「でも、何が良くて気に入られたのか…… 僕って何かしましたか?」
「これと言って何も」
「なら、どうしてです? 僕、フィーネさんみたいな綺麗な方に見初められるような見て呉れでもないですし……」
「気になる?」
「とても」
「なら教えないわ」
「そんな!」
思わず声を荒げたマルコは、すぐに謝罪の言葉を続けた。
その様子に思わず吹き出したフィーネは愉快そうに微笑む。
「あなたって素直で良い子よね。 そういう所が気に入った理由の一つよ」




