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剣を受け取ったマスターは剣を抜く前に、その軽さに驚いた。
短めの剣とはいえ異様に軽い。
これはもしやと剣身を抜くと中からは淡い青白色に輝く綺麗な刃が顔を見せる。
思わず唸ったマスターは、ゆっくりと剣を鞘に戻すとそのままフィーネに返した。
「この剣はどこで手に入れた?」
「大切な人からもらった、片見の剣よ」
「良い剣だ。 これを持っているなら最初から見せてくれれば、あんたを悪魔だと疑ったりしなかったものを」
首を傾げるフィーネに向かってマスターは続ける。
「解っていないから俺に渡したんだろうが、この剣を持てるのは人間しかいねぇ。 あんたが悪魔ではない十分な証拠だ」
「どういうことかしら?」
「この剣はミスリル鋼っていう希少金属で出来ているのさ。 ミスリル鋼は非常に高い硬度を持っているのに、しなやかで羽のように軽い。 そして何より霊力を帯びていて、魔力を有する悪魔にとっては近づき難い代物なんだ」
「それは知らなかったわ」
「だから、これを扱うあんたは悪魔じゃねぇ」
「誤解が解けたのは嬉しいけど、この剣は最近まで魔力を込められていたわよ? そんな剣を持つ私を信じて良いのかしら」
「ミスリルに魔力を込めるなんて芸当は上級の悪魔にしか無理だろうな。 だが、剣を見た限りその痕跡を微塵も感じねぇし、魔力を綺麗に隠しているとも思えない」
「意外としっかりした目を持っているみたいね。 単なる好色老人じゃなくて安心したわ」
「おいおい、俺はここの管理人だぜ。 甘く見てもらっちゃ困る。 それと、老人はないだろう。 これでも六十前だぜ?」
「好色なことは否定しないのね」
「それは違いないからな。 それより、魔力を込められた剣をどうやって戻したか、その方法が気になるね。 上級悪魔を殺ったのか?」
「いいえ、知り合いに魔力を払ってもらったのよ」
「そいつはすごいな。 かなり高名な聖職者が知り合いか」
「残念ながら単なる口うるさい修道女が旅仲間なの」
意外な答えに思わず笑い声を上げたマスターはそのまま愉快そうに話を続ける。
「聖職者に向かって口うるさいとは罰当たりだぜ。 それに上級悪魔の魔力を払えるのは、かなりの功徳を積んでいる証拠だ。 旅仲間なら大事にしてやんな」
「そうするわ」




