~ 2 ~
フィーネを一行に加えてから十日ほどが経っていた。
ダグラスの一件からは上級悪魔に遭うことはなく、各地に蔓延る下級の悪魔を封じ込めながら着実に目的地であるロディニア国に向かっていた。
しかし、ロディニアの隣国に入国して間もなく異変が起きた。
「大変です! 大変です〜!」
早朝、宿屋の廊下に忙しない足音と共にリルの声が響く。
彼女は一室の扉を勢い良く開け放つと中に飛び込んだ。
「大変です、マリーさん!」
仲の良い修道女のマリアンに声をかけると、彼女は着替えの真っ最中だった。
白いワンピースの袖に腕を通しながら、突然開いた扉に驚き頬を赤らめている。
「やだ、リルさん! 扉を開ける時はまずノックをして下さい!」
「ごめんです、マリーさん。 でも、今はそれどころじゃないんです!」
「小娘、どうかしたの?」
部屋の隅で着替えを進めるマリアンに代わり、フィーネが彼女に話しかける。
「リルは小娘じゃないです! リルです!」
「あなたの名前は百も承知よ。 急いでいるなら用件を言いなさい」
フィーネは落ち着き払っていて彼女を見ようともせず、鏡に向かいながら小指で唇に紅を点す。
リルは大きく息を吸い込んでから衝撃の一言を発した。
「ご主人様が目を覚まさないんです!」
その一言にマリアンは言葉を失った。
かろうじてフィーネが一文字で聞き返す。
「ご主人様だけじゃないんです! ブライトも目を覚まさないんです!」
「……いったい、どういうことなの?」
「わかんないです。 だから、こうして二人を呼びに来たんです! 早くご主人様の部屋に来て下さいです!」
二人は頷き、慌てて二人が休んでいる部屋へと駆けつけた。