~ 20 ~
「もう歩けないです」
宿に戻ってきたリルは部屋の扉を開けるとベッドに倒れ込んだ。
「普段の移動より歩いた気がするです」
三人はランスターの家を出た後、主婦から聞いた家へと足を向けていた。
そこでも眠り続ける青年に会い、家族に様子を伺ったのだが、状況に大きな変化はなかった。
「どいつもこいつも何事も無かったかのように寝ているだけなんて、いい加減嫌になるわ!」
リルに続いて部屋に入ってきたフィーネはベッドに腰を下ろすと脚を組み、膝を台にして頬杖をつくと忌々しそうに顔を歪める。
「毒でもないのに何で起きないのよ!」
日が沈むまでに三人が回った民家は十軒を超える。
しかし、決定的な証拠は何一つ見つからなかった。
「原因は解りませんでしたが、眠る時間が長ければ長いほど老化が進むことが解ったじゃないですか」
「そんなことが解ったって意味ないでしょう! 早く解決しないとレイヴァンも同じようになるという無駄な焦りを生むだけよ!」
「それはそうですけど……」
椅子に腰掛けたマリアンが申し訳無さそうに下を向くと、室内に沈黙が訪れた。
「今日はもう考えるのは止めて寝るわ」
しばらくしてからフィーネは再び口を開いた。
彼女は寝ると言うものの何故かベッドには横にならず、立ち上がると入り口の扉に手をかける。
「フィーネさん、いったいどちらへ?」
「もちろん無防備な状態で寝ているレイヴァンの所に決まっているじゃない。 ギルドは今回の病について悪魔の可能性もあると言っているのよ? 襲われたらどうするの。 私が見張りをかねて看病してあげないと」
「そんなことさせないです! 悪魔なんかよりフィーネが近づく方が危険です!」
マリアンは納得して頷こうとしたが、それよりも早くリルが声を上げた。
「あら小娘。 大人しいから、とっくに眠ったのかと思ったわ」
「まだ寝てないです。 フィーネが行くぐらいなら、リルがご主人様の部屋に行くです」
「あなたじゃ、レイヴァンは守れないでしょう」
「守れるです!」
ベッドを飛び降りたリルはフィーネが手に掛けた扉を先に開けると、主人の部屋に向かって走り出す。
「ちょっと待ちなさい!」
虚を突かれたフィーネは慌てて彼女を追いかけた。
一瞬のうちに静寂が訪れた部屋。
残されたマリアンの脳裏にはフィーネの言葉が繰り返される。
「二人とも待って…… 独りにしないで下さい!」
悪魔に襲われるという不安に居た堪れなくなり二人を追って部屋を出た。




