~ 18 ~
「それは、どんな理由かしら?」
「……婚約者である彼女が亡くなったの」
思いがけない言葉にマリアンは両手で口を覆い驚くが、フィーネは予想がついていたのか表情を一切変えずに質問を続ける。
「悪魔にでも襲われたの?」
「いいえ、彼女は事故に…… そう、あれは不運な事故なのよ」
悲しみと悔しさが混じった声で呟くように答えながら、主婦は自分の前掛けを強く握りしめる。
「詳しく聞かせてもらえるかしら?」
「……我が家に来る途中で、業者の馬車にひかれたの。 彼女はね、とても気の利く、それこそランスターには勿体無いぐらい良い娘だった。 後一月もすれば本当の家族になれるはずだったのに、どうしてあんな事に」
「それは残念だったわね」
「そんな矢先に今度はランスターが奇病にかかり、このような状態に…… 彼らが何をしたと言うのです!? 犯罪はもちろん疚しいことなど一切せず、ただただ彫金細工に心血を注ぎ、家族の皆で平穏に暮らしたいと思っていただけなのに! 何故このような酷い仕打ちを受けねばならないのです!」
主婦は説明をしている内に過去を思い出したのか、次第に声を荒げだし同じような話を繰り返し叫び始めた。
我を忘れ悲痛な叫びを続ける彼女は、ついには女神さえも罵り出す。
その様子にいたたまれなくなったマリアンが、そっと彼女に寄り添った。




