~ 16 ~
「今すぐ悪魔に詳しい学者に会いたいわ!」
フィーネは考えのまとまらない自分に腹が立ち思わず声を上げた。
それをリルが律儀に受け止め、そんな人に今すぐ会えるわけがないと答えるものだから彼女の苛立ちは増すばかり。
二人が口論になりそうなるとマリアンにたしなめられた。
喧嘩をしていても二人は助けられないと言われると彼女たちはすぐに大人しくなる。
ひとつ息を吐き気持ちを切り替えたフィーネは主婦に向かって再度鋭い眼差しを向けた。
「彼が眠りにつく前に何かなかったかしら? 怪我をしたとか、何処かに行ったとか。 些細なことで良いの」
「これと言って変わったことは……」
しばらく考えた主婦は静かに首を振った。
流石にこれ以上は聞いても無駄かとフィーネが思い始めた頃、既に状況に飽きていたリルは室内を物色していた。
彼女の興味は出窓に並べられた観賞用の草花に始まり、部屋の隅に置かれた木製の机に至る。
「これはすごいです!」
卓上を眺めていたリルは小さな彫刻品に目が止まった。
大半が金属や鉱石に細工を施してあるが、中には木製の物もあり、かなりの数だ。
一つ一つ手に取り眺めていたリルは、その中に一つに首を傾げたくなる物を見つけた。
他の細工品と比べてあまりにも雑な作りの小さなブローチ。
中には明るい緑色の髪の女性が描かれているが、お世辞にも上手く描かれているとは言い難い。
「これは失敗作です」
一人呟くリルはブローチを机に戻すと、すぐ隣にあった指輪を手に取った。
曇りのない銀色の指輪には黄緑色の宝石が乗っており、瞬くように輝いている。
「こっちはすごく良いです」
思わず欲しくなったリルは主婦に尋ねるが、やんわりと断られた。
そこで二人が気付き、フィーネが指輪を取り上げている間にマリアンが主婦に謝った。
それでも諦めきれないリルは売って欲しいと頼むが、主婦は首を立てに振らなかった。




