~ 15 ~
フィーネとマリアンが首を傾げながら呟いていると、リルは大いに騒ぎ出した。
「小娘、静かにしてて。 集中して考えられないでしょ」
フィーネは頬を膨らますリルを軽くあしらうとランスターの指先を診てから、そっと髪に触れる。
静かな寝息を立てる彼は髪を触られても何の反応も示さない。
全身を確認したフィーネは静かに首を振った。
「残念だけど毒に冒されているわけではなさそうだわ。 マリアン、先日みたいに魔力を祓ってみてくれない?」
「わかりました」
フィーネに促され彼の枕元へとやってきたマリアンはその場に跪き、手を合わせると目を閉じた。
彼女が祈りの言葉を紡ぎ出すと呼応するかのように全身が淡く光り出し、溢れ出した光は眠るランスターを包み込む。
主婦の驚く声にも微動だにせず、マリアンは祈りを続けた。
皆が息を飲んで見守る中、光は静かに収束を迎え、祈りを終えた彼女がゆっくりと目を開くと視界に捉えたのは変わらず眠り続ける彼の姿。
その様子に思わず表情を曇らせると、ランスターの母親が優しく微笑みかけた。
「気にしないで」
「お力になれず申し訳ありません」
「著名な神父様でも無理だったのですから。 きっと悪魔が憑いたわけではなのでしょう」
その言葉は何気ないがマリアンは傷つきそうだと思いながらフィーネは別の可能性がないか考え込む。
毒でも悪魔の力でもなく人が眠り続ける理由……
自分が医学の知識に疎いとしても、半日程度滞在しただけの人間が二人同時に発症する病があるとは信じ難い。
それも街で一日あたり一人二人、若い男ばかりが都合良く発症していく病……
考えれば考えるほど原因は毒によるものではないかと思えてくる。
だが、彼を診ても毒の影響を受けている様子は一切ない。
自分の知らない毒があるのかと考えたが即座に否定した。
暗殺を生業として生きてきて、今までにいくつもの毒を扱ってきたという自負がある。
そうなると、やはり……




