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町西部の三番区域、八番通り。
そこは店が並ばない静かな住宅街だった。
目的の場所にたどり着いた三人は目についた住民にランスターという人物が近くに住んでいないかと尋ねてみる。
すると、病にかかったことが余程有名なのか、すぐに家を特定することができた。
早速教えてもらった家へ足を運び、木製の扉を叩くと、しばらくして小柄な女性が顔を見せた。
前掛けをして目尻に少しばかり皺を刻んだ彼女は極めて普通の主婦といった印象。
先頭に立っていたフィーネが話しかけようとしたが、彼女を見た主婦は明らかに怪訝な表情をみせる。
住宅街に突如現れた艶やかな服装の女性。
否応にも警戒心が強まったのだろう。
フィーネ自身も分が悪いと感じたのか早々に後ろへと下がり、同時にマリアンの背中を押した。
突然扉の前へと送り出され慌てふためくマリアンだったが、彼女の服装と腕から零れんばかりの花々は主婦の警戒を緩めるのに十分な効果があった。
「あなたたちは、どちら様?」
主婦の彼女が尋ねるとマリアンは心底申し訳ない表情を浮かべる。
「突然の訪問をお許し下さい。 実は私たちロディニア国を目指して旅をしていたのですが」
「ご主人様と、もう一人が急に目を覚まさなくなったです!それで」
「あなたが話し出すと、話が無駄に長くなって、まとまらなくなるでしょうが! 黙っていなさい!」
突然マリアンの言葉を遮りリルが割り込んで相手に話しかけようとしたが、フィーネがすかさず後ろから彼女の口をふさぐ。
手足を動かし暴れるリルの様子に呆気に取られた主婦だったが、我に返るとマリアンに疑問を投げかけて話の続きを促した。
「目を覚まさなくなった方がいると言うのは本当なの?」
「はい、本当です。 私たちは昨夕この町に着き宿で一夜を明かしたのですが、今朝急に二人が目を覚まさなくなりました。 病を患うほど体調が悪かったわけではないのに…… それでどうしたら良いか解らず、ギルドを訪ねてみたところ、こちらにいらっしゃるランスターさんが同じ症状の病にかかられていると伺いましたので、失礼かと存じましたが何か治す術をお持ちではないかと話を伺いに参ったのです」
「そうでしたか、それでわざわざ……」
表情に影を落としながら、そのまま口を閉ざした主婦。
彼女に気が付かれないようフィーネは小声でマリアンに次に話す内容を伝えた。
一瞬困惑の表情を浮かべるマリアンだったが、フィーネに睨まれ恐る恐る口を開く。
「小母様、失礼を承知でお願い致します。 ランスターさんに会わせていただけないでしょうか?」




