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マリアンは両手で金貨を受け取ると大切そうに握りしめ、感謝の言葉を女神にも捧げる。
そのまましばらく目を閉じて静かにしていた彼女だったが、急に落ち着きがなくなった。
不思議に思ったリルが尋ねると、マリアンは思いがけない言葉を返した。
「金貨なんて初めていただいたものですから、どう使ったら良いのか……。 一枚で何が買えるのでしょうか?」
「……マリアン、あなたまさか金貨の価値を解っていないの?」
「恥ずかしながら、そうなんです。 金貨って銅貨何枚分になるのでしょうか?」
信じられないと騒ぎ立てる二人に、マリアンは頬を赤らめながら答える。
「何分、お金とはほぼ無縁の生活を送ってきたものですから」
「本当に信じられないです!」
リルは驚きながら今までの町での行動を振り返ってみた。
すると、食事や買い物の際は常にマリアン以外の誰かが支払っていることに気がついた。
「当たり前すぎで気がつかなかったです……」
「リル、説明していたら日が暮れるわ。 食事も終えたし、早速目的の家に向かいましょう」
「今回ばかりはフィーネの意見に賛成するです」
二人は立ち上がると、目的地に向かって歩き出した。
「二人とも待って下さい! お見舞い用に花を買いたいのですが、いただいたお金でいったい何本買えるのでしょうか?」
マリアンは慌てて後に続き、二人の背中に質問を投げかける。
「金貨一枚あれば、露店の花なら大半を買い占めることができるでしょうね」
「二枚出すとおそらく屋台丸ごと買えると思うです」
フィーネとリルは振り向くことなく答えた。




