アイリーン
少し短い気がしますね。
サブタイトルつけるの難しいです。
ゴブリンの住む西の森までの往復でディズレイリは女神の言っていた簡易瞬間移動を試していた。
そして分かったことは厳密には瞬間移動ではないということだ。アイテムや魔法で行うテレポートは点と点の移動で時差もないが、”仙人”の行うのは点と点を結ぶ線の動きで合う言葉は”渡る”だろうか。そしてもちろん時差が少し生じる。
いうなれば圧縮された時間の中で高速移動しているようなものでなかなか疲れる。だが戦闘の際の使い勝手はだいぶいいだろう。
森と街を”渡れば”二時間のところをわずか十数秒で移動できる。疲れるからしないだろうが。
ゴブリンとの戦闘は手加減の訓練となった。最大限弱くした”遠当て”ですら証明部位の右耳ごとバラバラに吹き飛ばしてしまうのだ。
ディズレイリは納得いくまで手加減の訓練をした後に、オーラを纏った手でゴブリンの首を断ち切りダマスカスのナイフで右耳を採取した。ゴブリンを優に50体は殺したが問題ないだろう。
今ディズレイリは依頼の達成報告をしギルドを出たところで二人の男につかまっている。その二人は王女の護衛だがお忍びのせいもあってぱっと見冒険者だ。
「我が主が昨日の昼間の件のお礼も兼ねて、食事でも一緒にいかがでしょうかと申し上げております。来て頂けるでしょうか?」
「いつどこに行けばよいんじゃ?」
護衛はディズレイリの言葉少ない返事に一瞬ムッとするが取り繕う。
「19時頃に”楽園”という宿まで来てください。では私達はこれで失礼します。」
この誘いを人違いだという理由で誤魔化し断ることは簡単だったし、そうするつもりだったのだが気づくとなぜか受けてしまっていたディズレイリ。
受けてしまったものは仕方がないので気が進まないが行くことにする。
時刻は”渡り”と手加減の訓練に時間をかけてしまったので17時過ぎたぐらいだ。19時まで時間があるので風呂にでも入ろうとディズレイリは宿に帰る。
19時少し前宿”楽園”の豪勢な作りの外観に、あまりそういったものに慣れていないディズレイリは立ち止まり躊躇してしまうが気を取り直し入って行く。
支配人らしき人物に案内されたのは最上階の一室、扉の前には二人の護衛が立っている。部屋に入れば向かい合わせのソファにこちらを向き二人の少女が座っている。
一人は薄紫色の長い髪と瞳の整った顔だちに柔和な微笑みを浮かべている気品溢れる18歳ほどの少女、もう一人はなんと昼間二人の冒険者に絡まれていたあの少女だ。
「あ、昼間のおじいさんがなんで?」
とこちらに気づいた少女が驚きながらもディズレイリをじっと見て視線を外さない。
昼間のことって何かしら?という顔でディズレイリを見るもう一人の少女に事の顛末を簡単に説明する。
「あら、そうでしたのですか。姉妹そろって助けて頂いたみたいですね、ありがとうございます。私はこのロンダート王国第一王女のマルティナ・マクファーレンです。こちらは妹のアイリーンです。よろしくお願いしますね。」
どこか嬉しそうなマルティナに促されアイリーンと呼ばれた少女も挨拶する。
「一応第三王女で冒険者をしているアイリーンです。よろしく。」
何か引っかかる言い方のアイリーンが気になるがとりあえず自己紹介をするディズレイリ。
「今日から冒険者のディズレイリ・グラッドストーンじゃ。好きに呼んでくれて構わん。それと助けたのは成り行きじゃから気にせんでもよいぞ。」
「そうですかお気づかいありがとうございます。お腹が空きませんか?食事にしましょう。こちらへどうぞ。」
立ち上がりとなりの部屋に案内するマルティナ。
椅子に座り食事を始めるもマナーのせいか喋らないマルティナとアイリーン、食事中にはもともとあまり喋らないディズレイリ。
少し気まずいがしっかり味わった静かな食事を終え、ソファに向かい合って座り食後の紅茶を飲む。
いつまでも黙っていても仕方がないのでディズレイリは気になることから聞いていくことにする。
「アイリーンじゃったの。なぜ昼間と先ほど儂をじっと見ておったんじゃ?何かついておるかの?」
「えと、そのペンダントから懐かしいような何とも言えない不思議な感じがしたから。何かなと思って。」
急に話を振られたアイリーンは焦りながら答える。
「これは世界樹のコハクといっての。世界に一本だけエルフの里に生えている大樹の樹液なんじゃが、懐かしいと?」
ペンダントを持ち上げながら不思議そうに言う。
「アイリーンの母親はハーフエルフなのです。だからかもしれませんね懐かしく感じるのは。」
マルティナの説明にディズレイリはさらに聞く。
「アイリーンが冒険者をしているのと母親がハーフエルフなのは関係あるのかの?」
「……ロンダート国王である父と冒険者をしていた母親の間に生まれたのがアイリーンなのです。早くに母親を亡くし王宮に引き取られたのですが冒険者で異種族との間の子供として疎まれていたのです。父も何とかしようとしたのですが……それで15歳になると同時に冒険者になると王宮を抜け出して行ってしまい、だからこうして時々お忍びで様子を見に来るんです。可愛妹ですから。」
悲しそうにそう言うマルティナにディズレイリはそうかと一言だけ、当のアイリーンは俯いており表情は覗えない。
「ディズレイリさんはこれからどうするおつもりなのですか?」
暗くなった空気を晴らすように明るく聞くマルティナ。
「とある目的があっての世界中を旅することになるじゃろうの。」
「世界中を旅するの!?」
ディズレイリの答えに喰いついてくるアイリーンはとても明るい顔をしている。そんな姿を見たマルティナは微笑んでいる。
「もし迷惑でないならばアイリーンをその旅につれて行ってやってくれませんか?」
話の大筋は決まっているのですが細部がなかなか決まらず執筆に時間がかかってしまいますね。