最初の依頼
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最新話です。
ディズレイリが疲れから眠りに落ちてしまったその夜、アズールで一番豪華な宿”楽園”の中でも最も上等な部屋で二人の男女が話し合っていた、といっても女はソファに行儀よく座り男は片膝をついており親密な雰囲気はない。
二人は昼間ディズレイリに助け?られた馬車の主であるこの国、ロンダート王国第一王女とその護衛騎士団長である。
「昼間盗賊達を倒してくださった人は、見つかったのですか?ぜひともお礼申し上げたいのですが。」
「ええ、まず間違いないであろう人物を特定しました。ですがその者は老人で冒険者登録を初めてしたような、出自のわからぬ怪しい者ですよ。本当にお会いになるのですか?」
団長が王女の身の安全を考え苦言を呈するも素気無く拒否される。
「会います。あなたの話を聞く限りその人はとても強いようです。もしかしたら私たちに力を貸して頂けるかもしれません。それにお年を召していらっしゃるようですし何か私の知らない知識を持っているかもしれないですしね。」
目を閉じ、決まり事のように言う王女に団長はあれくらい俺だって時間があれば、と呟いている。
そんな団長に言い聞かせるように立ち上がりながら王女は言う。
「とにかく明日の夕食に招くように。その際決して粗相がないように気を付けてくださいね。」
そして立ち去ろうとする王女を呼びとめ問う。
「夕食にですか。それまで王女様は何をなさるんでしょうか?」
王女に対して礼を失した質問に呆れたように王女は答える。
「私がこの街に忍んでまで来た理由を忘れたのですか?妹に会いに来たのですよ?ですから明日は昼から妹がここに尋ねてくるのです。」
そして団長は一礼し部屋を出て行く。それを見た王女は寝室の扉を開けて
「久しぶりにあの子に会えるわ。どのくらい成長したかしら?楽しみね。」
と嬉しそうに言ってベットに入る。
翌日早くに目を覚ましたディズレイリは、真っ先に朝食をとりさらに追加で注文し空腹を満たし、今宿の裏庭で瞑想している。
瞑想といっても自身のオーラを循環させたり木々や草花鳥たちや空気を感じ感覚を研ぎ澄ましたりしているだけなのだが。
納得できたところで昨日言われた通り冒険者ギルドへ向かう。
「おはようございます。こちらがディズレイリさんのギルドカードです。再発行には銀貨4枚かかるのでなくさないようにしてください。それではカードに血を一滴垂らして下さい。それで認識登録が完了しますので。」
ギルドに入り昨日の受付嬢のもとに向かうと白いカードを渡される。ギルドカードはランクによって色が異なり、最低のFランクは白。逆に最高のSSランクは黒である。
言われた通りに親指を噛み血を垂らすとカードの色と混じらず吸い込まれていく。
「それで最初の依頼ですがゴブリン10体の討伐をしていただきます。証明部位として右耳を必ず取ってきてください。期限は明後日までです。頑張ってください。」
何かを聞きたそうなディズレイリの目を見て受付嬢は思い出したように付け足す。
「ちなみにゴブリンはここから西に二時間ほど歩いたところの森にいます。他に聞きたいことはありますか?」
証明部位を切り取るためにナイフがいると思い、頷いて聞く。
「武器屋はどこにあるんじゃ。」
「それなら出て右に二軒いったところですよ。」
その言葉を聞きギルドを出て右へ二軒いったところに”ダンツ武具店”と書かれた店がある。生まれて初めての武具屋に若干興奮しながら店に入ると、迎えてくれたのは片手剣から果ては大斧と様々な武器たちであった。
思わずほほぉと漏らし見て回っていると後ろから声がかかる。
「お気に召すものがあったかい、じいさん。」
振りかえって見てみればそこには、体格の良い30代後半の髭を生やした男がカウンターに立っていた。
そのまま男の後ろへ視線をやれば白銀の美しい直剣が飾られている。剣の周りの空気が澄んでいるほどだ。
それを指差し
「お主がその剣を鍛えたのか。それはミスリルだと思うんじゃが。」
と聞けば、男は嬉しそうに剣の説明をする。
「いい剣だろう。だが残念ながら俺の作った剣じゃねえんだ。師匠が最後に作ったものでな。俺はミスリルなんか扱ったことがない。言い忘れたが俺の名はダンツだ。」
ディズレイリはニヤリと笑い聞く。
「儂はディズレイリはじゃ。好きに呼んでくれて構わん。ときにダンツよミスリルを扱ってみたくはないか?」
突然の質問に戸惑いながらもダンツは答える。
「そりゃあ扱いてえけどよ。ミスリルなんて滅多に手に入らねえし、手に入ったとしても馬鹿見てえに高いぜ。」
ミスリルは人族に扱える中で最も硬い鉱石であり聖銀と呼ばれるほどに魔を払う効果がある上に、採掘できる場所も限られ危険なのであまり出回らない。
「実は小ぶりのナイフを探しておっての。どうじゃ?この店で一番質のいいナイフをくれるのであれば、このミスリルの鉱石をやろう。」
ディズレイリは大剣が二本は作れそうな大きなミスリル鉱石をカウンターに取り出し提案する。
「うお!?いまどっから取り出したんだこんなでかいもん!つかそれ本当だろうなじいさん!本当にくれるんだろうな!!」
いきなりカウンターの上に現れたミスリル鉱石に驚き興奮しながらしつこく確認する。
「本当じゃ。じゃからこの店一のナイフを見せんか。」
唐突に興奮しだしたダンツに少し引きながらナイフを持ってくるように言う。
「ちょっと待ってろ。俺の最高傑作を見せてやるからな!」
今にもスキップでもしだしそうな足取りで店の奥に引っ込むダンツ。
そして持ってきてのは20cm程の木の棒に見えるもの。
「これが俺の今まで作ったものの中で一番出来のいいナイフだ。刀身はダマスカスで鞘と柄には最高級の千年桜の枝を使っている上に状態維持の魔法をかけてあるから、曲がらないし切れ味も落ちず手入れも要らない。もちろん切れ味抜群だ。これでどうだいじいさん?」
渡されたナイフは驚くほど手に馴染む上に暖かみがあり刀身には美しい木目模様の波紋が浮かんでいる。
「うむ、素晴らしい出来じゃし大いに満足じゃ。鉱石はやろう。それにしても魔法が使えるのじゃな。」
「状態維持だけな。滅茶苦茶疲れるから滅多に使わねえんだけどよ。魔武具が欲しいなら本職の付与術師に頼んだほうがいいぜ。」
少し驚いているディズレイリの問いになんでもないように答えるダンツ。
実際この世界で魔法は魔力の差はあっても基本的にだれでも使えるものだ。ディズレイリが驚いたのは女神にサブ職業はないと聞いていたからだ。鍛冶職人が付与術を使えるとは思わなかったのだ。
それと同時にディズレイリはこの世界ならゲーム内では使えなかった魔法が使えるかもしれないと考える。上手くいけば3つ目の職業を得られるかもしれないとも。
そしてこの後少し鉱石や武具のことについて話、ディズレイリが店を出て行こうとしたとき。
「なあじいさん。本当にミスリル鉱石貰っていいのかよ?かなり質いいしひと財産築けるぜ。」
やはりナイフとでは釣り合わないと申し訳なくなったダンツがそう言うも
「構わん。持っていても荷物になるだけじゃしな。ミスリルを扱いたいんじゃろう?じゃったら遠慮するでない。年寄りの気まぐれだと思っておけばいいじゃろ。」
どこ吹く風のディズレイリにダンツは
「じゃあよこのミスリル鉱石で最高の剣を作るからじいさん持って行ってくれよ。」
「気持は嬉しいが儂は剣は使わんのじゃ。悪いの。」
ダンツの提案を断るディズレイリ。
「じいさんの知り合いでもいいから頼むぜ。俺の気がおさまんねえんだ、な。」
しかしなおも食い下がるダンツにディズレイリも折れる。
「わかった。この街を出るときにまた寄るからその時に受け取るわい。じゃから最高の剣を作るんじゃぞ。」
「ああ!!」
ディズレイリに嬉しそうに答えるダンツ。
そして今度こそ店を出て初めての依頼に出かける。
店を出て太陽の位置を確認し大体11時頃と判断し昼飯の前に依頼をこなしてしまおうと、門へ向かう。
すると道を塞ぐように人だかりができているのを見つけ近くの人を捕まえ事情を聴く。
「あれかい?冒険者どうしの喧嘩さ。ただ片方の少女が結構可愛くてな。それであんなに集まっているわけ。」
そんなくだらないことかとため息を吐き反対側に行くため人ごみに突入するディズレイリ。しかしどう流されてしまったのか、気づくと野次馬の最前列にきていた。
人だかりの中心には、逃げ出せないか辺りを探る少女冒険者と厭らしく笑っている二人の冒険者がいた。
少女は短い金色の髪に青緑色の瞳、眉間のしわと固く結ばれた口でも損なわれない可愛らしさ。
そんなことをディズレイリは観察していたら少女と目が合ってしまった。しかも少女は目を逸らさない。
それを訝んだ二人も視線の先を追いディズレイリを見つけると標的を変える。
「おいおい冒険者登録したばかりのじじいじゃねえか。そんなとこで見てないでお前もこっちに来いよ。」
と馬鹿にしたように言いながら冒険者の一人がディズレイリに近づき腕をつかもうとする。
周りに憐れみの目で見られているディズレイリは男の手を躱し逆につかんで相手の体重を利用し地面に投げ落す。
予想外の結果に野次馬たちと残りの冒険者は唖然としている。少女に至っては口を開け間抜けな顔をしている。
「て、てめえ相棒になにしやがんだ!切り刻んでやる!!」
もう一人の冒険者が腰の剣を抜きディズレイリに向かおうとする。
だがディズレイリはゲーム内でこなしてきた様々なサブクエストそして得た様々なスキルのうち威圧系の最上級、魔物最強の古龍でさえ怯む”邪神の波動”を起動。
それを抑えられていたとはいえ、まともに受けてしまい冒険者は泡を吹き崩れ落ちる。周りの人々も尋常ではない圧力に飲まれてしまっている。
その隙にディズレイリは人ごみから抜け出し悠々と門へと向かっていった。
その後人々が我に帰ったころには、ディズレイリの姿はなくさらに泡を吹いた冒険者はそれ以来、異常に老人を怖がるようになったという。
お、おかしい。
全然進んでないだと!?