クリア
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<Sava World>最後の街リンセイル
普段は攻略とクリア期限への焦りがこの街を支配しているが、今日はどうやら違うようだ。街どうしを繋ぐ転移門前の広場にはボス戦のみを中継するディスプレイがある。その前に多くの人が集まり今か今かと中継を待っている。
「おい、なんでこんなに人がいるんだ?」
理由を知らないものが聞けば群衆のどこからか怒鳴り声が返ってくる。
「お前知んねえのかよ!『狂人グラッドストーン』がラストダンジョンのボスに挑戦するんだ!!ようやく帰れるんだ俺たち!」
その声に呼応し周りからも歓声があがる。
「唯一のレベルカンストが負けるわけねえ!逆にあいつが負けたら、だれも勝てねえよ!」
「長かった!本当に長かった!俺、帰ったら結婚するんだ……」
「馬鹿野郎!!フラグ建てんじゃねえよ!」
この盛り上がりはもっともだ。クリア期限まであと10日ラストダンジョンの攻略は済んでおり、ラスボスを残すのみとなっているがこのラスボスが強すぎた。すでに200人弱が犠牲になっている。ちなみにゲームが始まって以来、一万人いたプレーヤー達は2500人にまで減っていた。
そして遂に<Save World>内最強と言われている佐久間改めディズレイリが挑戦するのだ。彼はデスゲーム内においてクリアに関係ないクエストやサブダンジョンなどをやりまくる上にボス戦の中継時口元が微笑んでいるなど、常人には理解できない行いをしていたため”狂人”などと言う二つ名まで付いてしまっていた。
「お、映像きたぞ!ようやく帰れるんだ……」
中継用ディスプレイには扉の前に佇み最後の装備チェックを行うディズレイリの姿が映っている。
ラストダンジョンを踏破しディズレイリは、空間を圧迫していると錯覚するほどの威圧感をもつ荘厳な扉の前にいる。
「ようやく最後のボスじゃの。また悪魔なのじゃろうか?」
疲れている様子もなく、気楽に言う。
<Save World>のボスはことごとく皆悪魔なのでそう言ってしまうのも無理はない。といっても悪魔にもタイプがあり近接格闘・魔法・召喚術などバリエーション豊かで同じ戦い方をするものは一人もいない。あまりの個性豊かさに中の人がいるのではないかと噂されているほどだ。
「ステータスに異常はあるかの?」
と言いステータスを確認する。ステータスと言っても名前・歳・性別・種族・レベル・職業・装備品しか表示されずHPやMPすら表示されない。状態異常や呪いの類は表示されるのでそれの確認となる。
ステータス:レベル999
ディズレイリ・グラッドストーン(62) 人族 男
職業:メイン 召喚術師 サブ 闘仙
装備:
世界樹のコハク
覇王の聖骸布
魔狼のブーツ
友誼の指輪
神木の杖
召喚術師とは精霊術師と魔物使いを極めた者がなれる隠し最上級職であり契約している精霊や魔物を召喚することができる。
闘仙とは闘気系と呼ばれるオーラを扱う近接格闘職の最上級職で自身の間合いでは圧倒的な強さを誇る。
世界樹のコハクとはペンダントであり精霊術にボーナスがある。
覇王の聖骸布は名前は布なのに上下の服と神官服のようなローブがセットになっており物理・魔法防御に優れ闘気系にボーナスがある。
魔狼のブーツは魔狼から作ったブーツであり素早さに高いボーナスがある。
友誼の指輪は魔物か精霊と対等な契約を結んだ時に得られるもので友好の証であり。契約者のどちらかが死んだときに消える。
神木の杖は神域に生息する樹から作られた杖で神気を纏っており悪魔やアンデッド系に良く効く。
「異常はないのお。では行くとするか皆のもの!」
と言い神木の杖で硬質な床を二回たたくとディズレイリの周りに5つの魔法陣が描かれる。
そこから火・水・土・風の上位精霊と武装精霊が現れ指示を待つ。
ディズレイリはその慣れ親しんだ姿を満足そうに眺めて指示を出す。
「ふむ、いつも通り四属性の精霊は後方からの魔法支援と攻撃。武装精霊はターゲットを取り撹乱隙があれば攻撃、皆よいか。」
ディズレイリの言葉に精霊たちは頷く。
挑戦者の支度が整うのを待っていたかのように扉が開く。
そこはひどく暗い雰囲気の円形闘技場で等間隔に青白い炎の篝火が闘技場を囲っている。
闘技場の中心にそれは立っていた。
数々の修羅場をくぐり抜けて来たであろう人間の戦士姿の男だ。巨大の壁を前にしたかのような圧迫感がディズレイリを襲う。
「貴様が新しい挑戦者か。我が力の前に死ぬがいい。」
どこからか取りだした、明りを吸い込み決して返さない真っ黒い両手剣を正眼に構え言う。
「お主は悪魔じゃの?心を蝕む様なこの冷気間違えようがないわい。」
圧迫感などまるで感じないかのようなディズレイリは飄々としている。
「然り!我こそは最後にして最強の悪魔、今から死合う相手に名などいらぬだろう!さあ我に貴様の全てを見せろ!種族の違いを超えて見せろ!」
高らかに宣言し悪魔はディズレイリのもとに突っ込んでくる。
「気の早い奴じゃ。行くぞ!」
向かってくる悪魔に火の精霊が出した火球がぶつかる瞬間、悪魔の前に水の壁が現れ相殺する。
「奴め、厄介な魔法も格闘も両方こなすタイプじゃわい。」
まったく厄介と思っていないように楽しそうな口調で言う。
そして自ら間合いを詰めていく。悪魔の間合いに入った瞬間凄まじい速さの剣が振りおろされる。ディズレイリに当たる前に武装精霊が割り込み受け流す。
その隙に杖にオーラを纏わせ悪魔を横薙ぎに打ったたく。
壁際まで吹っ飛ばされた悪魔が呻き睨む。
「うぅ…。貴様その杖、神木だな。まさかその様なものを使う者がいようとは油断した。だがたとえ神木と言えども我を倒すにはまだ足りぬ。他の悪魔どもとの違いを思い知らせてやる。」
悪魔の右手に水が集まり矢の形を取る。右手を振りおろすと同時にディズレイリ達目がけて殺到するも、目前で現れた土の壁に阻まれる。悪魔は土の壁ごと剣で切るも、そこにはそでにディズレイリはおらず待ち構えていた四属性の精霊に集中砲火を食らう。
死合うこと数十分武装精霊の袈裟切りをまともに受け悪魔はたたらを踏む。悪魔は全身から血を流し息も絶え絶え、しかしまだ目には闘志が宿っている。対するディズレイリは腕を切られ血を流しているものの目立った外傷はなく顔にはこの場に不釣り合いな柔らかい微笑を浮かべている。また回復を行える水の精霊は消えてしまったが他は傷の程度差はあれ無事だ。
「下等な武装精霊がやってくれる。」
武装精霊はもともと下級な精霊である。だが精霊も魔物も戦闘とともに成長する特性からディズレイリの武装精霊は、いまや上級精霊に勝るとも劣らない程に強化されている。
「だがまだだ!まだマケン…」
そう言うと黒い靄が悪魔を包みだす。
「いかん!奴め理性を捨てさらなる強化をするつもりじゃ!」
悪魔のもとに詰めより杖で弾き飛ばす。
「ウガァッァァアァアァァ!!キカヌゾォォォォォォ!……ナン…ダト」
悪魔は自身の胸から生えている神剣を見つめ呆然とする。
「コンナモノナカッタデワナイカァ」
何かが砕けたような硬質な音がして悪魔の体は割れ塵になり消えて無くなってゆく。
「ふう、咄嗟に神剣を召喚してよかったわい。最強の悪魔も武器まで召喚するのは予想外だったようじゃな。」
あの神剣はディズレイリが召喚し投げつけたものだった。
疲れからその場に座り込みたいがこの姿は中継されているため我慢する。
「皆お疲れじゃった。ありがとうの。」
精霊達に感謝を告げ杖で床を二回たたく。精霊達は礼を言われたことに喜びつつ送還されていく。中級精霊以上には住処があるのでそこに帰るのだ。
「さてさてこれで<Save World>クリアじゃの!」
とても嬉しそうなでもどこか寂しそうな笑みを浮かべクリアを宣言する。
それと同時にすべての街に歓声が響いた。
次話で異世界に行きます。