8th Day:僕と彼女のちょっと長い1日 そのさん
「さあ、休憩終わり!働くよ〜。」
香織さんの元気な声で休憩が終了する。桐子さんのカレー美味しかったなぁ………今度教えてもらおう。
「は〜い。」
私も声を出して立ち上がる。さぁ、頑張ろう!今月はお小遣いが危なかったからなぁ。丁度いい時に誘ってもらってよかったよ、うん。………まあ、困った時には葵に奢って貰えばいいんだけどね♪
「はぁ………」
葵が溜め息をつきながら立ち上がる。蒼眼で銀髪………女の子みたいな私の幼馴染みは今日はエプロンドレスに身を包んでいる。うんうん、抜群に似合ってる!特にこの店の普通より短いスカートが気になるらしく、スカートの裾を引っ張りながらモジモジしている姿には私でも頬が赤くなる…………可愛いっ♪
「よし、やるか!」
「あれ、気合い入ってるね〜。この仕事気に入ったの?」
「んなわけあるか!!!………気合い入れないともたねぇよ………」
「そっか〜。」
残念、可愛いのに………。まぁ私も頑張ろう。葵ほどは忙しくならないだろうけど………確実に指名増えるからな〜……ふふっ♪
「葵。」
「何だよ………」
これから、一番疲れるだろう葵に一声かけてあげよう。
「頑張って♪」
さぁ、頑張ろう♪
†††††††††††††††
夏澄も香織さんも席を立つのでしょうがなく俺も立ち上がる。はぁ、休憩も終わるし行くか………
「葵。」
夏澄が声をかけてきた。
「何だよ………」
そう聞くと夏澄は一拍間をあけて言った。
「頑張って♪」
そう言った夏澄の顔は優しい笑顔だった…………正直効いた。うん、めちゃめちゃ可愛かった。
「はいはい。」
恥ずかしかったので素っ気なく返して部屋を出る。………しょうがない、午後も頑張ってやりますか!俺は半ば本気で気合いを入れて戦場へと向かったのだった…………
なんだこれわ…………
「おぉ!やっと来たか三人とも。」
「桐子さん………なんでこんなことになってんですか………!」
店内の席は全てうまっている。この店は喫茶店とは思えないぐらい広いはずだが………。しかも店の外にはかなりの人数が並んでいる。俺たちが休憩してた30分の間に何があったんだ………?
「なに、看板娘の写真を入り口に貼っただけだ。」
「写真?」
「これだ。」
そう言って桐子さんは一枚の写真を懐から取り出した。
「………桐子さん?」
それに写っていたのはこの店のメイド服を着た女の子。ベンチに横たわり眠っているようだ。着ているメイド服は少し乱れていて白い肌が覗いている。チラリズムか?そして気持ち良さそうに目を閉じている幼さの残る可愛らしい顔だちに長い銀のツインテールがよく似合っている。……………俺だよ(泣)!!!
「いい写真だろう?葵が寝ている間に記念撮影したんだが、あまりに可愛かったんで有効活用しようと思ってな。」
なにしてくれてんだ!!!
「さあ、指名が溜まってるぞ。しっかり働いてくれ!」
桐子さんはそう言って部屋の奥に引っ込んでしまった。おーい!任せっきりかよ………どうしろってんだ。
「葵ちゃん大人気ね〜!頑張ってね♪」
香織さん………頑張ってね♪ぢゃなくて助けて………
「ファイト♪」
夏澄もファイト♪ぢゃねぇよ………
「葵ちゃ〜ん!こっち向いてくれ〜〜!」
「可愛い………」
「こっちもだ!注文とってくれ〜!」
ぐっ………ほとんどが俺指名じゃねーか!!!
「ちきしょー!やってやらーーー!!!」
俺は胸の中に激しい怒りを隠しつつ、とびっきりの笑顔で接客をはじめた。こうなったらこいつらの有り金搾り取ってやるぜ!!!
「お待たせしました!ご注文をお取りしますね♪」
「えっとね、この和風ハンバーグセットとオレンジジュースで。」
和風ハンバーグとオレンジジュース……っと。この店、メイド喫茶のくせに料理はかなりまともだよな………っと違う!最初のカモはこいつだ!
「あの………御主人様……」
「え、なに?」
「実はこの店自慢のパフェがあるんですけど………どうでしょうか?」
顎のあたりで指を合わせながら、上目使いで見つめる………決まったな。
「えっ……でも金無いしなぁ……」
ちっ!こうなったら………
「そう……ですか………。ごめんなさい、ご迷惑をかけてしまって………」
俺は目を伏せながらしょんぼりする。
「あっ、いや、大丈夫!パフェも頼むよ!!!」
………ふっ、落ちたな。後で何か言われんのも嫌だからサービスしとこ。
「あ、ありがとうございますっ♪!!!」
俺は自分でも完璧だと思える笑顔でそう言った。………うん、完璧♪
「ではご注文を確認しますね♪和風ハンバーグがひとつ、オレンジジュースがひとつ、そして『LUCIFER』特製ジャンボパフェ(5人前)がひとつ、以上でよろしいでしょうか?」
「えっ……!!?」
「どうかしましたか?(にこっ)」
「いや、なんでも………」
ふははははっ!あっさりひっかかったぜ!ちなみに『LUCIFER』特製ジャンボパフェ(5人前)は3990円だ。俺の魅力にかかればこんなもんだ………悲しくなってきた(泣)……そ、それでもやってやる!!!
「お待たせしました!ご注文をお取りしますね♪」
こうして俺は営業時間ギリギリまで笑顔を駆使して接客を続けた………なんか、男として越えてはならない線を越えてしまった気がする………
「あー今日は楽しかったなぁ♪」
家への帰り道、夏澄が言う。太陽は沈み始め、オレンジ色に辺りを染めている。
「楽しかった……か?」
「うん。」
俺は疲れたよ………楽しい要素が見当たらん………
「桐子さんが喜んでたよ、1週間分の売り上げが出たって。」
「そうか………」
まあ、『LUCIFER』特製ジャンボパフェ×34個分の売り上げがあればね………
「また行こうね♪」
「絶対やだ。」
「ふっ、葵に拒否権は無いんだから。」
「なんでだよ。」
にっこり笑うと夏澄はポケットから紙切れを取り出した。
「これ、な〜んだ!」
そんなの分かりきってる。
「契約書だろ?」
今日こいつに付き合うハメになった忌々しい契約書だ。
「だから今日付き合ったんだろうが!」
そう言うと夏澄はニヤリと笑ってとんでもない事を言い出した。
「どこに今日だけって書いてある?」
………はい?今なんて言った?
「どこにも今日だけなんて書いてないでしょ?」
いやいや!そんなこと言ってたら一生有効じゃねぇか!!
「アホか!一生言うこと聞かせる気かよ!?」
「そうだけど?」
ちょっと待て(汗)!!!何勝手に俺の人生束縛してんの!!?
「もう、しょうがないなぁ。」
そう言って夏澄は俺の目の前に立つ。………しょうがないじゃねえっての!
「じゃあ付き合ってくれる度にご褒美あげる♪」
ご褒美?なんだそりゃ。
「目………瞑って………」
「……へっ!?」
えっと………それってつまり………?いや、ちょっと、まだ心の準備とかいろいろ………って若干上目遣いだし、めちゃくちゃ可愛いし………って違う!!!
「………嫌?」
「……………わかった。」
目を閉じる。目の前にあった夏澄の顔が視界から消え、代わりに真っ黒な闇が広がる。待つこと10秒……20秒………30秒………あれ?
「………夏澄?」
「ていっ♪」
「あたっ!!?」
おでこに強い衝撃を感じて目を開ける。………半端無く痛い。
「てめぇ何すんだ!」
「でこぴん。」
「んなこた分かってるよ!」
ったく、何しやがる!
「ねぇ葵?」
「なんだよ………」
「期待した?」
「う、うるせー!」
そりゃ、期待したっての!
「そうかそうか。」
何だか満足げな夏澄。俺はうるせーって言ったんだけど?
「さてと、家にも着いたしさよならだね。」
そうこうしてる内に我が家に着いてしまった。
「ったく、じゃあまた明日な。」
別れを告げて家に入る――その時
「葵!」
「なん………だ!?!?」
振り向こうとしたら頬に柔らかい感触。目の前には夏澄の顔。
「ごほうび♪」
「〜〜〜っ///」
は、恥ずかしい………!!!
「じゃあね、バイバイ♪」
そう言って隣の玄関に駆け込んだ夏澄の顔が赤かったのは夕陽のせいか………そんなわけ無いか………///
こうしてちょと長い1日は終わりを告げた。いろいろあったけど終わり良ければ全てよし………かな?ただ、唇じゃなくて頬だったのがちょっと残念だが、まあ良しとしよう―――
「あ・お・い〜♪」
「ふ、冬姉っ!?」
玄関からニヤニヤしながら冬姉が見ている。
「見たわよ〜♪」
「な、何を?」
「ふふふふふっ♪」
冬姉は手に持ったデジカメをチラつかせる………やっぱりただでは終わらなさそうだ………
どうも!皆さんお久しぶりです!梅雨になると気が滅入るぺたです。………はい、ごめんなさい………長い間放置してました。読んで下さってた方には本当に申し訳ないですm(_ _)m つ、次こそは早めにUP出来るように………(汗)
さてと、今回の話で僕と彼女の長い1日は終了です(やっと)。次回は恐らく一話完結です。恐らく。気分屋なのでまた長くなるかも………f^_^; 期待せずにお待ちください。
最後に、ここまで読んで下さった読者様に感謝を。評価・感想をいただけたら幸いです。
【2007/06/15】