オレの嫁様。
それは、あたしが小学校六年生の時。
すっとぼけた母親に、買い忘れた豆腐を頼まれて自転車でスーパーに行った帰り道。夕日が落ちる直前、世界が真っ赤になる時間帯。信号が青になるのを待っていたあたしの目の前に、その子は現れた。
「?」
透き通った白い肌、さらさらの金髪。洋服から覗く細い手足や大きな頭、四、五歳くらいに見えるけど、さてどうだろう。
あたしが住んでいるのは小さな町で、町内の人間なら一通り分かる。だけどあたしは、金髪の少年なんて見たことない。最近引っ越してきたのか、親戚がこっちにいて遊びに来ただけなのか。何にしろ、小さな男の子が遊んでいて良い時間ではない。
赤信号なのに、ふらりと横断歩道を渡ろうとする彼の小さな背中を、ぽんと叩いた。
「もしもし、ボク」
「……なに?」
自転車に乗ったまま、腰を屈めるあたしに少年は、視線を合わせる。上を向くと前髪が横に流れ、大きな瞳が露わになった。
うお。テレビでも見たことないくらいの美少年だなぁ。
髪に合わせた金色の瞳、瞳孔は黒。通った鼻筋、薄い唇。完璧なバランスの、綺麗な顔。将来絶対モテモテになるぞ。日本語が通じることにも感動だけどね。
瞳に純粋な疑問を映す彼のため、自転車から降りてしゃがみ込む。彼は、何も言わなかった。
「あのね、あれは信号って言ってね。赤い時には渡っちゃいけないの。青になるまで、待って渡るもんなんだよ」
「どうして?」
「車にぶつかっちゃうから。痛いよー血が一杯出るよー」
大げさな動きと一緒に痛みを表現しても、彼は無表情。ううん、今時の子供は無感動だ。
頭を抱えて腕を組むあたしに背を向け、歩き出そうとする。その腕をとっ掴むと、ぴり、と指先が痛む。静電気だ。秋なのに珍しい、けれどここで手を離す訳にはいかない。
腕を掴んだままのあたしを、少年は不思議そうに見上げる。着ていたジャケットを自転車の後ろの荷台にくくりつけ、少年を促した。
「なに?」
「まあまあ、歩きより自転車の方が早いでしょう。家まで送るよ」
信号も分からないような子、一人で歩かせるなんて。この子の親もどうかしてる。確かに車の少ない町だけど、危険はゼロじゃない。それにこんな可愛い子、誘拐されちゃうとか考えないのかな。
目を丸くする少年を抱きあげて荷台に座らせ、あたしもサドルに座る。小さな手を掴んであたしの腰に巻き付けると、案外素直にしがみついてきた。警戒心のない子だなぁ。家がどっちの方か聞いてみると、しばらく黙った後「真っ直ぐ」と答えが返って来た。それに頷き、青になってからペダルを踏んだ。
――その時あたしは、荷台の少年が浮かべる黒い笑みにはすっぱりさっぱり気付いていなかった。
漕ぎだして二十分か、それ以上か。少年の言う方向に進むが、依然として着かないらしい。 ていうか、こっち山の方向なんだけど、こんなところ住んでいる人、いたんだ?やっぱり、親戚に預けられた線が濃くなってきたな。子供がいたら病気だ何だ手が掛かるのに、わざわざ山の方に住む人はいないだろう。
けれど、自転車でこんな掛かる距離を、こんな小さな男の子が歩いて来れるものか――?
人っ子一人すれ違うこともなく、車もない。後ろの少年が小さく震えるのを感じて、声を張り上げた。
「寒い?」
「ううん、平気。楽しいだけ」
……楽しい?それは、自転車の二人乗りが、ということだろうか。考え込むあたしの耳に、少年の声が届いた。さっきまでと違う、無感動でない、柔らかな声音。だけどそれは、作りものみたいに聞こえた。
「ねぇ、どうしてキミは俺に声をかけたの?」
キミと来たか。随分偉そうな子供だ。だけど綺麗な肌からして、この子は大事に育てられたことが窺える。その価値観を、わざわざあたしが指摘することはない。
「子供がこんな時間に一人で歩いていたら、声をかけるのが当たり前でしょう」
「そうなの?人間は、自分の得になることしかしないと聞いたよ」
「……随分偏った意見だね」
少年の言葉は、大分皮肉めいているが、間違ったことでもない。自分の得にならないことを、好き好んでやる人間はいないだろう。誰だって、したことには見返りが欲しいものだし、出来るなら多くのものが欲しいと願う。
「まぁ、否定はしない。あたしも、声をかけたのは自分に得があってのことだからね」
頷きながら、自転車を飛ばす。外灯のないでこぼこの道は自転車がガタガタ揺れて、後ろにいる少年のお尻はさぞかし痛いだろう、と思った。
あたしの言葉を聞いた少年は、ぎゅ、と強く抱き付いてきた。
「……へぇ?どんな」
柔らかな、高い声。だけどそれは、どこか艶めいている。少年らしからぬ声音に、違和感を感じながら、口を開いた。
「ボクが家に帰って、今日はこんな綺麗なお姉さんに会って送ってもらったんだーって楽しく話してるのを、想像すること」
すらすらと、口から零れる言葉は自分でも下らないなぁと思った。後ろの気配が、固まる。なんだ、綺麗なお姉さんに突っ込みたいのか、それは認めないよ少年。
「……何それ」
「人が幸せにしてるのを見たり聞いたり想像するのは、十分得になってるでしょう。しかもボクみたいな可愛い子だったら尚更だよ。美形一家なんだろうね、羨ましいわー」
全員揃ったら、うちの一家なんて卒倒するレベルなんだろうな。会ったのが少年だけで良かった。
「それのどこが、得?」
低く唸るような声。両手に籠った力が、ぎりぎりとあたしのお腹をしめつける。ちょ、苦しい、内臓出るって。やっぱりこんな小さい子でも、力はあるらしい、男の子だもんね。苦しさに喘ぎながら、力強くペダルを踏んだ。
「――何を得に感じるなんて、人それぞれでしょう。誰かの価値観ににケチつけたりすんのは、誰であったって許されないことだよ」
人と違う価値観で、何が悪い。そこら辺の考え方は、大雑把かつオオボケな父母に感謝。あんな突飛な両親が育ててくれなけりゃ、あたしは自分と違う考えをする人間を、認めることは出来なかっただろうから。
他人は他人、自分は自分。親であっても、子供の人生には干渉しない。
物心ついた時から、その言葉が繰り返された。愛情がなければ突き離したような教訓かもしれないけど、これはあたしや姉や弟がどんな人生を選んでも、納得し、認めてくれるっていう裏返しの言葉だと、あたしは分かっている。
少年はしばらく黙り込んだ後、ふっと力を抜いた。とん、と背中に温もり。
「……ねぇ」
「ん?」
あたしの背中に唇をくっつけて話しているのか、少し籠ったしゃべり方。少し冷たくなってきた風に、身体を震わせた。
「――俺が大きくなったら、俺の嫁様になってくれる?」
よめさま。とは、お嫁さん、でいいんでしょうか。
まずそんなことを考えると、実際に口に出していたらしく、肯定の返事が後ろから返って来た。
こんな美少年に人生最初の求婚されるなんて、人生何があるか分からない。嬉しいもんだなぁ。もちろん、五歳かそこらの少年の言葉、真に受ける方が馬鹿ということは分かっている。今でさえこんなに可愛いのだ、将来はさぞかしイイ男になって、美人なお姉さまに囲まれるだろう。その時まであたしを覚えてくれているとは思えない。しかしそんな現実的なことを考えるより何より、こんな小さい子の可愛らしい願いを壊すのも如何なもんかと思う。
「うん、いいよ。あたしでいいなら」
こっくり頷いて返事をすると、少年は声を上げてあたしに抱き付いた。可愛い奴め。
「名前は、何て言うの?」
「あたし?貴崎 薺だよ」
「なずな!!」
この名前に関しては両親を恨みます。可愛い響きだからーとかで付けたらしいけど、クラスの男子には「薺だ薺ー!!」と公園に咲いてるのを踏みつぶされる。花のことだとは分かってるけど、良い気分はしないね。もちろん瞬間的に後ろから蹴っ飛ばしてやったけどさ。
だけど少年は嬉しそうにあたしの名前を連呼し、そして、ふっと手を離した。――え!?
「ちょ!!」
ブレーキをかけ、振り返るあたし。
そこには、――宙に浮いた少年は、半透明になり、そして。
「待っててね、早く大きくなって、迎えにくるから」
……笑顔を見たのは初めてだ、と気付いたのも、束の間。
―プップー!
真横から聞こえたクラクションの音に、はっと顔を上げると、真っ赤な車。どうやらあたしは、横断歩道のど真ん中にいたらしい。慌てて道路の端により、息を呑む。
そこは、少年に会った、交差点だった。
「……え?」
さっきまで暗かったはずなのに、夕日はあの時と変わらず、そこにある。ジャケットも、荷台にくくりつけたはずなのに、あたしがしっかり着こんでいる。
全く状況は呑みこめなかったけれど、とりあえず、豆腐がないと今日の夕飯にありつけない。そして、母に怒られる。首を傾げながら、あたしは自転車をこぎ始め。全てはただの白昼夢だったのだろう、と納得することにした。
* * *
――六年後。高崎薺、十七歳、華の高校三年生。
今日も今日とて、あたしは、変なモノに追いかけられている。
「あーもーいやーっ」
『ウマソウ、ウマソウ』
制服のプリ-ツスカートを振り乱し、ダッシュするあたし。いつもの帰り道には、誰もいない。こいつらと一緒の時は、あたしの存在は世界から、消える。ふ、と気付けば町にも校内にも誰もいなくなり、変なモノと二人(?)っきりになって、追いかけっこが始まるのだ。六年間、お陰で瞬発力はやたら上がった。陸上部からひっきりなしにお誘いが来るレベルだ。
後ろから追いかけて来るのは、今日のは蜘蛛、みたいなの。いや、三メートル超えてて顔が女の人の生物を蜘蛛と言うかは知らないけどね!!しゅわしゅわ白い糸みたいなのを吐き出しながら、あたしの後ろをカサカサ音を立てて這って来る。気持ち悪いなぁ。でも、マシな方かも。カマキリの大型みたいなのが追っかけて来た時は本当にトラウマになりそうだったもん。
しかし、今日のはしつこい。いつもは十分かそこら逃げればいきなり掻き消えて、あたしは元の場所に戻るのに。
息切れしながら、それでも足を動かす。基本的にあいつらの言語は分からないけど、本能で分かる。捕まったら食われる、と――。
初めてあいつらに遭遇したのは、あの秋の日の翌日。
帰り道にあたしを追っかけて来た目が一つしかないスーツ姿のおじさんは、たまたま人間語を話すタイプだった。だって、はっきり「食いたい」って言われたのが分かったから。もちろん、ダッシュで逃げたけどね。
それから六年間、家にいる時以外は一週間から一カ月ペースで変なモノが襲いかかって来る。色んな種類が襲いかかってきたけれど、そのいくつかは、テレビの怪談などで見るようなポピュラーな妖怪だった。一度、そういう物が好きな姉の旦那に相談したら、「多分薺ちゃんは妖怪を引き寄せるフェロモンみたいなのがあるんじゃないかな」と言われた。とりあえず、家の中は安心なのでインドア派になることに。
そして、もう一つ。あの秋の日、家から帰って来てお風呂に入ったあたしの背中には、何だか分からない模様の痣が出来ていた。けれどそれは、何日経っても消えない。痛みはないし放置したけれど、それも不思議なことだった。
「っは」
震える足を叩いて、角を曲がる。とにかく、今は逃げなくちゃ。あたしの夢は大学行って一般企業に就職し、出世して老後は海際の静かな家で寿命を迎えることだ!!こんなところで命を落としてたまるか!!
いくつ曲がったか分からない位、走り。
「、」
――なんと、行き止まり。
路地の入口を蜘蛛(仮)が塞ぐ。じりじり後退するあたしに、蜘蛛(仮)は顔をにんまり笑みの形にした。視線を左右に散らしても、逃げるところはない。塀を超える隙に、きっと食われてしまうだろう。
――ここまでか。
諦めにも似た気持ちが、胸中に過ぎる。今までが幸運に過ぎなかったのかもしれない、もしかしたらとっくに運は尽きていたのかも。ああでも、せめて高校くらいは卒業したかった。両親に学費払ってもらってたんだもん、晴れ姿くらい見せたかった。
蜘蛛(仮)がチロリと赤い舌を見せ、口を大きく開ける。その姿に、ぐ、と身体に力を込めた。
そして、こちらに飛びかかる。
次に自分に来るだろう衝撃に備え、目を瞑り――。
……。
……。
……?
想像した痛みだ何だが、何故か来ない。気付けば顔を覆っていたらしい腕を取り除き、恐る恐る、目を開ける、と。
「……え?」
――目の前には、大きな背中。
高そうな白い和服は、テレビで紹介される陰陽師とかが着ているもの、だった気がする。腰まである長い金髪は一本の三つ編みになっていて。
そして目の前の人は、あたしを振り返った。
「遅くなって、ごめんね。薺」
綺麗な顔には、二つの、金色の瞳。
あたしを見つめるそれには、柔らかな愛情が見え隠れする。不覚ながら、年頃の異性には初めて向けられる視線にときめいてしまった。
……でも、ときめける状況でもないことに気付く。彼は真っ直ぐ右手を宙にかざしていて。そこには、あの蜘蛛(仮)。
何故か蜘蛛(仮)は苦痛に表情を歪めていて、身動きが取れないようだ。
あたしの視線の先に気付いた彼は、不愉快そうに表情を歪める。
「駄目だよ薺、俺以外見ないで」
そういう場合ではないと思うんです、はい。
この青年が何とかしてくれたのは分かるけれど、それがいつまで続くか分からない。早く逃げないといけないんでは、と思うんだけど。
眉を顰めるあたしの言いたいことに気付いたのか、苦笑した。その顔も、すんごく美麗。目の保養になるわー。
「とりあえず、コレ、始末しちゃうね。待ってて」
それだけ言うと青年は振り返り、右手を少しだけ上げる。そうすると、蜘蛛(仮)の大きな身体も上がった。その顔には、恐怖が浮かぶ。そして、青年が右手を勢いよく下げた、次の瞬間。
―バリバリバリッ!!
蜘蛛(仮)に雷が落ち、気付いたら、その存在は一片も残っていなかった――。
「薺、お待たせ」
「……へ」
くるりと振り返った青年は、あたしの腰を掴み、立ち上がらせてくれた。気付けば地面にへたり込んでしまっていたらしい。
間抜けな声を上げるあたしを、満足そうに見つめると、ぎゅう、と抱き締められる。彼は随分大きいらしく、百六十以上あるあたしのつむじが、彼の肩にも届かなかった。
「ずっと会いたかったんだ、薺も俺に会いたかったでしょう?」
抱き締めながら、額やら頬やらに口付けを落とされる。
会いたかった、とは?あたしには、こんな金髪美形の知り合いはいないはずなんだけど。眉を寄せるあたしに気付いたのか、彼は唇を尖らせた。
「薺、ひどいよ。覚えてないの?」
「えーっと」
覚えてないも何も、会った記憶がない。
けれどそう言ったらひどい目にあう気がして、口を閉ざした。黙り込むあたしに、彼は目を細め、すっと背中を撫でる。欲望を感じさせる手つきに、思わず飛び上がりそうだったけれど、あたしは他のことに反応した。
その、場所は。
「……折角、ここに俺の痕、残したのに」
彼の指は、確実にあたしの背中の模様をなぞっていた。場所も形も、ばっちり分かっているらしい。呆然としてその顔を見上げる。すると彼は、嬉しそうに目を細めた。
「思い出した?俺、ちゃんと大きくなったでしょう?迎えに来たんだよ」
――その言葉を聞いて、痺れるような衝撃を受ける。
彼はあたしの瞳に自分が映るのが余程嬉しいのか、笑みを深めて顔を近付けた。
そんなはず、ない。だって当時、あの子は五歳かそこらだった。
あれから六年。成長期だったとしても、まだ十代前半だ、こんな大きくなるはずがない。目の前の彼はどう見ても、二十代。
そう、ありえないのに。
「俺の、嫁様になって、薺」
――それは、あの秋の日出会った少年と、同じ瞳だった。
言葉を失うあたしの耳を、そっと青年は食む。他人の唇の感触に、びくりと身を竦めるあたしに、彼はおかしそうに喉を震わせた。
「俺、ちゃんと薺が十八になるまで待とうと思ったのに、薺、俺以外を誘惑するんだもん」
してません。そう言おうとした唇は、彼の瞳に制された。ぎらぎら光るそれは、ひどく荒れ狂う。思わず、身体が震えた。
「あいつらちゃんと全部殺したけど、それでも足りなかったよ。俺の薺を、食べようなんて考えることが許せない。
薺は危なっかしいから、今度はちゃんと、ずっと側で監視していてあげるからね」
にっこり微笑み、あたしの頬を撫でる指先は、大きく、温かい。
けれど、『違う』。
目の前の彼は、人間じゃない。長年の追いかけっこライフのせいか、あたしはその手の勘が非常に鋭くなった。
じっとその瞳を見据え、口を開く。
「……あなたは、誰?」
彼はあたしの言葉に、目を見開き、困ったように笑った。
「ごめんね、まだ名前も言ってなかったっけ。俺は、鳴。君の婿様」
何だか照れるね、とはにかんで笑い、彼はあたしのこめかみに唇を這わせる。今のところ、食われそうな気配はないから好きにさせているけれど。(別の意味で食われそうな気配はむんむんしている)
さて、肝心の正体は?首を傾げると、耳に唇がくっつけられ。
「……で、一応ね、雷神を兼任してるの。強くなれば大きくなれるから、俺、頑張ったんだよ?」
――吐息を織り交ぜて囁かれた言葉に、あたしの身体は、固まる。
褒めて、褒めて、と期待するような瞳に、とりあえず頭を撫でてやると喜ばれた。いや、そうじゃなくて。
「雷、神……?」
「うんっ。こっちにも絵とかあるでしょ?風神の奴も一緒に描かれてる奴とかさ」
雷神。風神。それは割とポピュラーな神様の名前では、ないだろうか。
さっき彼は、手を下げるだけで、雷を落とした。それは決して、人間にはない力。それを軽々と使いこなした彼は、つまり、本物の。
絶句するあたしに、彼は嬉々として話しかけ、身体中を撫で回す。金色の瞳は欲を帯びて濡れて、蕩け。
「だいすきだよ、薺。一生、俺だけの嫁様だからね――」
唇に降って来た熱を、あたしは拒否出来なかった。
あたしは、後になって知る。
彼はあの日、暇つぶしに人間界に来て、後で臣下に文句を言われるのが面倒で獣の食料としてあたしを持って帰るつもりだったとか。
だけど他の人間と違うあたしを気に入って、嫁にするつもりになっただとか。
あの日から妖怪に襲われるようになったのは、彼が嫁様の証として残したあの痣が、妖怪を引き寄せる強い力を放っていたせいだとか。
あたしを食おうと追いかけて来た妖怪達は、全部彼が始末してただとか。(時間がかかったのは、ちょっぴし時差があるためらしい)
あたしが十八になったら、すぐに彼の世界に連れ去り嫁様にするため、必死で修行を積み、六年で急成長し、今や妖怪のほとんどが彼を恐れる程の実力の持ち主となっているだとか。
今はそんなの全く知らず、ただ、初めてのキスが余りに濃厚で、酸素の足りない脳味噌でどうやって息をすればいいのか悩むばかりだった――。
ヒーローは何の妖怪にするか、中学時代の友達に夜中に電話して相談しましたwwちなみに彼の名前は「鳴神」から来てます。単純ー!!
テンション低めな感じの薺ですが、彼女は恋愛関係に関しては、非常に流されやすく押しに弱いタイプです。まぁ、婿様ががっちり縛り付けて離さないので将来は大丈夫でしょう。