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エル人形とアダム

戦争のシーンで人が死ぬ表現がちょこっと出てきます。

アダム視点でアダムがどうして人形遊びや服作りにハマったのかがわかります。

「王太子殿下はこの城の地下の牢に捕らえられている。先程出てきた監視の男を尋問して吐かせたので間違いないだろう、俺がはじめに行って鍵を奪う、お前達は援護してくれ」


この場にいるのは俺を含めて5人。


敵陣にこの人数で踏み込むのは無謀とも言えるが、もう他に手段はない。


「では行くぞ」


俺は襲いかかってくる敵兵を容赦なく斬りつけ牢の鍵を奪い、俺たちは王太子殿下の救出に成功した。


人質の王太子を失った隣国は騎士団長率いる本隊に攻め込まれ、無条件降伏をし、この長く無駄な戦争は終わった。


王太子殿下は療養が必要な為騎士団長と先に王都へ帰られたが、俺たちは王太子殿下救出の褒美として1週間の休暇をもらったのでゆっくり帰る事にした。


家族に会いに行こうかと思ったが、俺の家族は王都を挟んで反対の国境側に避難しているので、1週間では会いに行く時間が足らない。戦争が終わったと知れば、王都に戻ってくるだろうし、その時会えるだろう。


「おい、アダム。お前の家族はまだ王都に戻ってないんだろう?俺の実家はここから王都に戻る途中にあるんだ。寄って行かないか?温泉もあるから疲れが取れるぞ」と騎士寮でのルームメイトのマシューが話しかけてきた。


温泉。。悪くない。俺は2つ返事でその提案に乗った。


「おい、マシュー、俺たちは温泉でゆっくり出来るとか言ってなかったか?」


「温泉はあるとは言ったが、ゆっくり出来るとは言ってない。戦争で男手が取られたから色々やる事があるんだよ」


相変わらず人使いがうまいやつだ。マシューには4人の姉がいて、姪は5人もいる、女系家族なのか甥はいない。


俺はその姪達の子守り役になった。女の子と遊ぶなんて、どうしたらいいのかわからないが、どうやら人形遊びをしたいらしい。俺の姉はこういう遊びはしなかったから、なかなか新鮮だ。


マシューの姪たちが持っているおもちゃは壊れているものも多く、人形の服は擦り切れていた。戦争で物資も滞っていたので、おもちゃはあるだけマシなんだろう。出来る限り小物は直したが、人形の服は修繕できるレベルを超えていた。


マシューの実家は服飾店をしているので、幸い端切れの布や服の型紙が沢山あった。

俺の姉は裁縫には全く興味がなかったので、母は手先が器用な俺に目をつけ裁縫を教えてくれた。戦争中は服などが破れても替えの服などはなかったので、この技術はとても役に立った。母には感謝しかない。


俺は人形サイズの型紙を作り、端切れ布で人形の服を作ってあげた。そんなに上手いとは思わなかったが、子供たちは大喜びで、もっと作って欲しいとねだられた。


戦争で心が殺伐としていた俺に取って、マシューの姪達との人形遊びは心を癒してくれた。


王都に帰ってからも、俺はその子達に人形の服を作っては送っていた。そして自分でもドールハウスを1から作り始めた。


そんな時マシューの姉から、俺の作った人形の服のデザインで実際の服を作りたいという話が来た。


マシューの姪っ子達の人形の服を見て、同じドレスが欲しいと言うお客さんが多くいるそうだ。

俺は俺が作っている事を内緒にしてもらえるならと了承し、姉の名前を使う事にした。


マダムイブの名前が服飾業界でそこそこしれた頃、マシューが幼馴染と結婚した。花嫁のドレスは俺がデザインした。幸せそうな2人を見て、俺も家族が欲しくなった。


幸い、王太子殿下救出から俺は英雄と言われ、騎士爵まで陛下から賜り、女性から求婚される事も少なくなかった。しかし、付き合いを進めるうちに、俺の趣味がドールハウスを作った、着せ替え人形の服を作る時に人形の洋服を着替えさせて遊ぶ事もあると言うと、気持ち悪い、変態とか言って振られる事が何度もあり、俺は結婚を諦めかけていた。


そのうち俺は出世して副団長に任命された。俺はマシューの方が人の扱いは上手いと思うんだが。本人は出世より嫁との時間が欲しいとその気はないようだ。

副団長という地位に言い寄ってくる女性は多かったが、俺はもう何も期待していなかった。

そんな時に備品発注課に入ってきた新人の子が可愛いと団員たちが騒いでいるのが聞こえてきた。


エルに初めて会ったのは遠征に必要な備品を発注する為の申請書を出しに行った時だった。


団員たちが騒ぐ理由がわかった。エルは小柄で可愛らしく庇護欲がそそられる。


無骨な騎士団の制服を着てても、その可愛さなら、俺のドレスを着せたらどうなるだろうとつい思ってしまった。そのせいか気が散ってしまい、申請書にミスを連発したようで、訂正の為にエルは俺の執務室に書類を持ってきてくれた。

わざわざ申し訳ないと言うと。

「間違えた所も、私の勉強にもなります」と丁寧に訂正箇所を教えてくれた。

その時から俺はエルの事が気になっていた。


それからエルが担当する申請書を出す時は何故かミスが続くようになった。他の書類は完璧だ言われるのに。


その度にエルは嫌な顔もせずに、執務室に通ってくれたが、周りの団員たちはエルが来る度に俺の執務室の周りをウロウロするようになった。全く持って面白くない。


「エル嬢、俺のミスで毎回こちらに来て頂くのは申し訳ない。次からは私が行くから気軽に呼び出して欲しい」と言ったが、仕事のうちなので気にしないでくださいと言うだけだ。


なので初めから間違いがないように、申請書を一緒に作成する事で話がまとまり、エルは上司の許可を取ってくれて事務所の一部を使わせて貰える様になった。


それが2年も続けば、個人的な話もするようになる。エルが姉の子供とお人形遊びするが楽しくて、この前マダムイブの服をねだられましたと言った時はドキッとしてしまった。


今ではマダムイブの人形服やドレスは高級品と言ってもいいほどの人気ぶりだ。人形の服でもそこそこの値段がする。

その為にお昼はお弁当にしてお金を貯めているんですって言ったエルは可愛かった。


マシューの姪たちはもうお人形遊びから卒業してしまったので、俺はまた誰かの為に人形の服を作れるのが嬉しくて、マダムイブは俺の姉で、試作品なら格安で譲れると言うとエルは大喜びしてくれた。まあお金は貰う気はないが。


そうしてエルに出会ってから、3度目のニコラウス祭がやってくる。俺はもうその頃にはエルにどっぷり恋をしていたが、俺の趣味の事でまたあの令嬢達のように引かれるのではと思い告白する勇気はなかった。


「いい加減にしろよアダム。絶対エルちゃんもお前の事が好きだと思うぞ。それにあの子はお前の趣味を蔑んだりするタイプではないのはお前が1番わかってるだろう」

とマシューに言われても、なかなか行動に起こせず、きっかけに慣ればとエルの為にドレスを作り始めた。


ドレスの布はマシューの姉に頼んだのでマシューがその布を持ってきてくれたんだが「真っ赤な布って、お前ヘタレな癖に独占欲は強いんだな」と失礼な事を言われた。


しかし、年明けの遠征準備に手間を取られるて、なかなか時間が取れない。そんな時にエルはニコラウス祭の休暇中は実家に帰ると聞いた。


なら休暇明けでいいかと、エルの姪の為に先に人形のドレスを作って先に渡した。


すごく喜んでいるし、実家に帰るのは明後日らしいから、今夜夕ご飯に誘ってもいいだろうかと聞こうとしたら、新人のジムがやってきて、エルをお茶に誘おうとしている。


なんか異様にムカついて、ついジムをはじめ大掃除後の鍛錬に熱が入ってしまい、つい遅い時間になってしまった。


鍛錬後にマシューに話があると言われたが、団長に呼び出されているので執務室で待っていてくれと鍵を渡した。


団長からは明日の朝、王太子殿下がニコラウス祭前に孤児院を訪ねるとの事で護衛を頼まれた。なるべく少ない人数で行きたいそうだ。


となると明日も一日仕事で、エルが実家に戻る前には会えないかもしれない。


そんな事を考えて執務室に戻ったら、マシューがニヤニヤしてる。


「惜しかったなアダム、さっきエルちゃんがここに来て、ニコラウス祭のプレゼントを()()()()()とお前に置いてったぞ」


「エルが来たのか?いつだ?」


「もう30分以上前だから、流石に家に帰ったと思うぞ」


「なんで引き留めないんだよ!」とつい怒鳴ってしまったが。


「俺にいうなよ。とっとと告白しないお前が悪い」


そうだな。追いかけるには遅すぎる時間だし、家もどこか知らない。


俺はガッカリしながらエルからのプレゼントを持って家に帰った。


袋の中には素晴らしい加工がされた革の短剣入れと裁縫道具ポーチが入っていた。エルの手作りなんだろうか?実家は革細工の工房だと言っていたし。


そしてラッピングはされていないが、エルに似たエルフの人形と説明書が入ってた。


人形を俺にくれたのか?俺の趣味を知っているのか?とちょっとドキドキしてしまった。


そのエルフ人形はエルのような髪と目をしていた。


説明書には自分が寝てるところが見えるところに置く事、名前をつける事、その後は触ってはいけない事、自分の願い事は口に出さずに毎日願う事と書いてあった。


これは噂のエルフ人形なのか?エルは買うことができたんだな。


俺はエルフ人形をベットの向かいにある暖炉のマントルピースに座らせて、


「君の名前はエルだよ。宜しくね」と言って寝た。


次の日の朝は特にエルフ人形に変わったことはない。やっぱりプレゼントを持ってくる話はデマだったのかもしれない。

俺はあの願い事をしてから、エル人形に挨拶をした。


仕事を終えて、帰る前に執務室でエルのドレスをを作り進めた。その時に余った布で、エル人形にもドレスを作り家に持って帰った。


1人でのご飯は味気ないので、エル人形にも少しお裾分けして、今日あった事を色々話した。


自分でも人形に向かって話している怪しい男だなと思ったが、本当にエルが聞いてくれている様でついつい話してしまう。


夕ご飯の後は、ドールハウスのキッチンのアイデアの為に本を読んでいたが、朝が早かったので眠くなってしまった。最近はやや不眠症気味だったので、この機会を逃さずに寝たい。


しかしやっぱり夜が明ける前に喉が渇いて起きてしまった。


エル人形の方を見ると。。マントルピースの上に、革製のブックカバーとクッションがあった。


エル人形は俺がドールハウスの本に簡易の紙カバーをつけているのを見てたのか?他の人にドールハウスの本を読んでいるのがバレたくなかったからつけていたけど、読みにくかったんだよな。エル人形のくれたカバーは手触りも良く、本にピッタリだった。

クッションはプレゼントではなく。俺がドールハウス用に作ったものだ。なんでここに。

そうか、こんな硬いマントルピースの上じゃ居心地悪いものな。


俺は色々な家具をドールハウスから持ってきて、マントルピースの上にエルの部屋を作った。よくみたら、さっきシェアしたご飯も無くなって、お皿の上にはきちんとカトラリーが置いてある。


そしてエル人形は俺の作ったドレスを着てくれていた。


もうそれだけで、本物のエルが俺のドレスを着てくれている様で嬉しくなった。


なんか気持ちがスッキリして、俺はまた眠ることができて、次に起きた時はちゃんと朝だった。いつもは二度寝なんかできないのに。

エル人形は今度はソファーの上にちょこんと座っていた。気に入ってもらえたみたいだ。


それからエル人形は疲れたというと俺の好きなお菓子を、眠れないというと安眠に良いとするハーブティーや香油をプレゼントしてくれた。エル人形はちゃんと俺の話を聞いてプレゼントを選んでくれている。


ニコラウス祭のプレゼントで貰ったマダムイブのポーチは本当に素敵で、汚したくなくて、携帯用ソーイングセットがあればいいなと言った次の日には、これまた見事な装飾はされた携帯用ソーイングセットを貰えた。これなら遠征中も使えると大切に制服の胸ポケットに入れた。


俺は毎日エルと暮らしているような気分になり、早く本物のエルに会いたくてたまらなかった。


俺は毎日「エルに早く会いたい、エルと結婚したい」と心の中で祈っていた。


そしてニコラウス祭の前日になった。

あまりにも楽しい日々で1週間なんてあっという間だった。


今日のエル人形は俺はあげたドレスや帽子。アクセサリーも全部つけてくれている。


赤が多いので、全身真っ赤なエルになったが、すごく可愛かった。


エルの隣には、エルの目みたいな石がついた指輪があった。


指輪。まるでエルが俺に求婚してくれているみたいでどきっとした。


面白い模様だな、ゴツゴツしてるし。


あ、これは指抜きリングだ。騎士団専属のお針子さんがしてたのを見たことがある。


そうかこれなら、携帯用ソーイングセットに入らない指ぬきも遠征に持って行ける。何よりエルの色のついた指輪をつけれるってだけで幸せだ。


今日はエル人形と最後の日だ、早めに仕事を終わらせて、休暇中にドレスを仕上げる為に執務室から家に持って帰って来た。今まではお昼休みに縫う時間しかなかったがこれでゆっくり完成させられる。


ドレスに刺繍をしながらエル人形の方を見ると、同じ赤いドレスを着てソファーにちょこんと座っている。


プレゼントでもらった指ぬきリングを見ていたら、エル人形が居なくなってしまう事が急に寂しくなった。


触ってしまえば魔法が解けて、この人形はどこにも行かない。そんな事も思ったが、俺の最大の願いが叶わなくなると困る。


そんな事を考えていたら、振り向きざまにバランスを崩してエル人形の座っているソファーに肩がぶつかり、エル人形が落ちそうになった。


思わず何も考えずに人形を掴んだ瞬間、突然何かが上に落ちてきて俺は床に倒れた。


「痛ってえ」


目の前にはエルがいた。


人形じゃない本物だ。何が起こったのか?

エルは魔術でも使えるのか??


エルが俺の上から退こうとバタバタしてるが、エルの存在を確かめたくて、抱きしめ続けた。


エルが話してくれた話は本当とは思えない話だが、今ここにエルはいるし。毎日もらっていたプレゼントもある。


じゃあ毎日エルは俺の話を聞いて、何をしているのかみていたのか?


そう思ったら急に恥ずかしくなった。


え?俺、エル人形に告白も含めて全部言っちゃったし、ていうかシャワー後に半裸で歩いていたよな。


本人はなるべくみない様にしてたと言っているが、見えていた部分もあるって事だな。


俺は落ち着く為に今度はエルを俺の膝の上に座らせて、今までエル人形にできなかったお世話をすることにした。


エルのふわふわの髪をブラッシングしてると俺は気分はいいが、エルは恥ずかしいのかモジモジしてる。


俺はやっと決心して俺の趣味の事を言った。人形遊びとか引かれないかな。


「お人形遊び私も好きですし、一緒にドールハウスも作りたいです」


俺はもう天にも昇る気分だった。やっぱりエルは俺は思った通りの女性だった。


もう我慢できない。


俺はこの勢いでエルに求婚もした。もうマシューにヘタレとは言わせない。

エルはちゃんと俺の目を見て承諾の返事をしてくれた。


これから忙しくなるな、エルのウエディングドレスは俺が絶対に作る。


その前に。。


「さあ、俺もエルで着せ替え遊びでもしようかな。人形の時は出来なかったしね」


エルには俺の半裸を見られたし、お返しだ。


「これからは人形はもういらないな。妻を俺の作ったドレスで着飾る方が楽しそうだ。まずはこの赤のドレスを着て、一緒にニコラウス祭のお祝いをしよう」


エルは慌てているが、お世話をされるのは好きみたいだ。


もし露天商に会う機会があったら、お礼を言わないとな。

エルを俺の人形にしてくれてありがとうって。










ちょうど、エルフたちが帰る前に書き終わりました。

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