ニコラウス祭の奇跡
初日は偉く長く感じたが、あっという間に1週間が過ぎようとした。
アダム様が仕事の間は私は眠って、帰ってきたら一緒にご飯を食べる。まあアダム様がご飯を食べている間、私はアダム様のおしゃべりを聞いているだけだが。アダム様が寝ている間に、私はプレゼントを用意する。
そんな毎日のルーティンが出来ていた。
私はアダム様が好きなお菓子や夜に眠れないようなので、ラベンダーの香油やカモミールティーをプレゼントした。
本当に大したことの無いささやかなプレゼントでも、毎朝アダム様は1番にプレゼントをチェックして、本当に嬉しそうな顔をする。
そして私へお礼と言って、人形用のアクセサリーや洋服、帽子をくれた。小さいのに本当によくできている。アダム様にもらった物は次の日の朝には必ずつけている。するとアダム様は「よく似合っている、可愛いよエル」と言ってくれる。
これは人形のエルに言ってる言葉とわかっていてもついドキドキしてしまった。
アダム様が私がマダムイブにプレゼントとしてあげた裁縫道具ポーチを見て。これがどこでも持っていけるサイズだと良いなあと呟いていたので、今朝のプレゼントには携帯用のソーイングセットを用意した。もちろんこれも私の革細工でできている。以前姉に頼まれて作った物と同じだ。
今朝それを見つけたアダム様はすごく喜んで、制服の内ポケットに大切そうにしまってくれた。
「これは遠征中に大活躍するな。ありがとうエル」
それを聞いた私もすごく嬉しかった。
もう明後日はニコラウス祭。
明後日の朝にはもう私は家に戻れるはずなので、明日の朝のプレゼントが私からの最後のミニプレゼントになる。だから今夜はもらったものを全てつける事にした。
マントルピースの上にアダム様が姿見もおいてくれたので、それを見ながら自分の姿をチェックする。
赤い帽子に初日にもらった赤いドレス。全身真っ赤ね。
さて最後のミニプレゼントはどうしよう。
今朝渡したソーイングセットを制服に仕舞っていたという事は仕事中に使うのかな?遠征中に制服が破れたり、ボタンが取れたりした時に使うのかもしれない。
そういえば、騎士団のお針子さんが騎士の制服は硬くて縫いにくいと言っていた。だから指ぬきがないと手が痛くなるとも。
渡したソーイングセットは厚みがないので指ぬきまでは入らないし。
じゃあ指ぬきの事を教えてくれたお針子さんがしてた指ぬきリングにすればいいかな?ぱっと見では指ぬきには見えないし、リングとしてはめておけば無くさないだろう。
私が指ぬきリングを思い浮かべるとシルバーに青の石が入ったリングが現れた。私はリングをソファーに置いて、その横に座った。私からの最後のプレゼント。気に入ってくれるかな。
私が帰って、ニコラウス祭の朝が来れば、アダム様の願い事が叶う日。
何を願っているのかはわからないけど、毎朝起きる前に手を合わせているので、声には出さずにお願い事をしているんだろう。
そのお願いは誰がかなえるのかな?
あ、アダム様が起きそう。
「おはようエル、今日は午前中だけで仕事は終わりだから、最後の日はゆっくり君と過ごせるよ」
私をまじまじと見て、満足そうな顔をした。
「帽子もドレス似合っている。おや、これは僕のなのかな?指輪だけど。。この凹凸具合。これは指ぬきリングか!これなら普段からつけていても、違和感ないな。裁縫入れに指ぬきは入らないからどこに入れようかと思ってたんだよ。そしてこの色、エルの目の色だね。大好きだよエル、どうもありがとう」
本当に人形だと表情が変わらないからよかった。出なければ、きっと私の顔は真っ赤になっているはず。
「早く帰ってくるからね、今日はご馳走にしよう」と言ってアダム様は出かけて行った。
そしてお昼頃、大きな箱を抱えて帰ってきた。
「エル、ただいま。夕ご飯は届けてもらう事にしたから、今日はこれを仕上げながらゆっくり一緒に過ごせるよ」
とアダム様が箱をぱかっと開けると、真っ赤なドレスが入っていた。
どうやらドレスにビーズなどで刺繍を入れてくみたいだ。
「これは俺の大好きな子に作っているんだ。エルが来ているドレスもこのドレスで余った布で作ったんだよ。本当はニコラウス祭のプレゼントであげたかったんだけど、仕事が忙しくて間に合わなくてね、休暇が終わったら渡したいんだ」
私はその話を聞いて、胸がぎゅっとした感じがした。アダム様には好きな人がいるんだ。
「その子はね、本当に素敵な子なんだよ。俺の事をいつも心配して助けてくれるんだ。あの子なら、俺の趣味も受け入れてくれる気がするんだ」
アダム様は手を止めて私の方をじっと見た。
「エルが本物の人間だったら良かったな。毎日ちゃんと俺の事を見て、何が欲しいかとか必要とか考えてくれる。そして俺の話もじっくりと聞いてくれる」
本物の人間だし!人形だから話せないだけで聞くしかないんです。
「ニコラウス祭の願い事でエルがずっとここに居てってお願いしようかと思ったけど、俺はやっぱりあの子に早く会いたいんだ。ごめんねエル」
そんなにその子の事が好きなのね。まあ私が人形のままここにいるわけないけどね。
「じゃあ最後に、エルにもうひとつの秘密を教えてあげるね。みんなが俺の姉だと思ってるマダムイブは本当は俺なんだ。俺の本当の姉は刺繍より剣が好きで、いつも俺の練習相手になってくれた。母は姉は諦めて、俺に裁縫の基礎を教えてくれた。騎士になっても必要な時は必ず出てくるって。これを知っているのはマシューとエルだけだね」って私にウインクをした。
あーーそれが秘密だったんだ。
確かにアダム様をみて、あんなに繊細な美しい洋服を作ったり、刺繍ができるとは誰も思わないしな。
「まあ今は忙しくて、デザインと試作を作った後は工房の人に任せてるけど、これは大切なドレスは自分で作りたいんだ」と愛おしげにドレスを見る。
「だからあの子が俺が作った人形の服をみて、自分も着たいって言った時本当に嬉しかったんだ」
ん?
「今頃姪っ子ちゃんは俺の作った人形の服喜んでくれているかな?プレゼントを持って来てくれたのに、会えなくて。ついマシューに八つ当たりしちゃったよ」
んん??
それって。
「ねえ、エル。本物のエルもこのドレスを気に入ってくれると思う?エルにそっくりな君に似合うから、彼女にも似合うと思うんだよね」
えーーーーーーーーーーーーーーー
アダム様が告白したいのって私、いやなんなら今されてる。
「さあ出来たよ。エル、ちょっと見てくれる?」
真っ赤なドレスにの裾にはキラキラ光る星の刺繍がされている。すごく素敵。
「俺の色を着てもらいたいって思うのは、思ったより俺は独占欲があるみたいだな。だからエルが騎士団員とかに言い寄られないように、こちらから事務所に行くようにしたし。それでもジムみたいな奴もいるからな。まあ。。。俺も人の事は言えないな。エルに会うのが楽しみでつい書類の間違いを増やしちゃうってのがバレたら怒られそうだ」
え?そうなの?
あの時間は私も楽しかったから良いけど、わざとだったのか。頭の良いアダム様があんなに間違えるのはおかしいとちょっと思ってたのよね。ついそこが可愛いとも思ってたけど。
アダム様はドレスを丁寧に箱に詰めて。
私の方にやってきた。
「ねえ、エル。やっぱり俺はエルにずっとここに居て欲しいな。もし俺が触って、不思議力が無くなったら、ずっとここにいられるんじゃない?俺、エルにならなんでも話せるんだ」
やばいやばい。今、人間に戻ったら、大変気まずい。
アダム様が私にしてくれる筈の告白をもう全て聞いちゃったとか。
アダム様が私に手を伸ばしたが。ギリギリで止めた。
「なーーんてね。エルはニコラウス祭の奇跡だから、そんな不届きな事はしないよ。俺の願いが叶わなくなっちゃうかもだし。でも俺が彼女にフラれたら、また慰めに来て欲しいな」と言いながら、部屋を出て行こうとする。
しかし、アダム様がドアの方に向こうとした時にバランスを崩して、私の座っているソファーに肩が当たって、私はマントルピースから落ちそうになってしまった。
「あ、やばい」
それは一瞬のことだった、アダム様が落ちそうな人形の私を受け止めた時。
ポン!
ドサ
「痛ってえ」
私は元の姿になって、アダム様の上に被さるように乗っかってしまった。
「え?え?エル??なんでここに??」
「あーーーやっと戻った!きゃああああ
アダム様すみません、今どきます!」
「いや、待って。エルがエルだったの?人形の?エルは魔女か何かなの?」
「違います、どっちかというと魔法使いに魔術をかけられたというか」
私は不思議な露店の話をした。
話をしていくと、アダム様の顔がどんどん赤くなる。
「それって、エルが人形の時も意識はあって全て見て、聞いてたって事?」
「え。。えっと、なるべく見ないようにしてました。聞くのは止められなかったですが」
「なるべくね」
「あのーーそろそろ、離して頂けませんか?私は重いですし。」私はいまだにアダム様の上に乗っているが、がっしり掴まれていて動けない。
「やだ、離したら消えてなくなるかもしれない。全然重くないし」
「消えませんよ。明日の朝には元に戻るって言われてたんですから」
アダム様は渋々離してくれたが、そのままソファに連れて行かれて、今度は膝の上に乗せられた。そして何故かブラッシングをされている。
「アダム様、あまり状況が変わってないです。どちらかといえばやや悪化してます」
「俺は人形のエルのお世話もしたかったんだ。人形遊びが俺の趣味なんだよ」
「え?マダムイブとして洋服作る事が趣味だったんじゃないんですか?」
「いや、あれは俺がマシューの姪たちに人形の服を作ってるのをマシューの姉に見られて、この技術は趣味にしておくの勿体無いって言われて、マシューの実家の洋裁店で販売をしてもらったんだ。あいつ、4人の姉がいるから、人形遊びとかに抵抗ないんだよ」
あーーだからか。
「エルは幻滅しないのか?こんなゴッツイ男がお人形で遊ぶとか」
「えーーしないですよ。私もお人形遊び大好きですし、あのドールハウスで遊びたいってウズウズしてるんです」とローテーブルの上のドールハウスを見る。
「ああ、俺のドールハウス、完成まではまだまだだけど、少しずつ作っていくのが楽しいんだ」
「私もミニチュア小物とかに興味あるんですよ。一緒に作りたいなあ」
アダム様はブラシを置いて。私をぎゅっと後ろから抱きしめた。
「俺の願いはもう半分叶ったな、俺の趣味が気持ち悪いって思わないでくれて嬉しい。エルは大変だったけど、俺にとってはその露天商は神様みたいなもんだな」
「えーーあいつが。。でもアダム様の事を知れて、ますます好きになる機会ができたのは良かったです。ところで、もう半分の願いってなんですか?」
アダム様は私をソファー座らせて、自分は床に片膝をついて私の手を取った。
「もう半分の願いはエルと結婚する事だ。俺の告白はもう人形の時に聞かれちゃったけど、これはちゃんと言いたい。エル、貴方の事が好きだ。俺と結婚してください」
嘘みたい。アダム様から求婚して貰えるなんて。私のニコラウス祭の願いも叶っちゃった。
ドキドキしながら私もアダム様の目をしっかり見て。
「勿論喜んで、アダム様の事がずっと好きでした。これからも宜しくお願いします」
アダム様は立ち上がって、私の横に座り。私の肩をぐいっと引き寄せた。
「ありがとうエル。一生大事にするよ。年が明けたらエルの実家に挨拶に行こう」
こんなに幸せでいいのかしらと思っていたら。アダム様が意地悪そうな顔になっている。
「で。。エルが人形の時になるべく見ないようにしたって言ってたけど、何を見ないようにしてたのかな?」
「え?今それ聞きます?」
「エルは好き勝手に俺の事見てたのに、色々フェアじゃないなと思って」
「好き勝手って。。私は望んで人形になった訳じゃないですし、アダム様、なんか悪い顔してます」
アダム様がさらに肩を引き寄せ、もう顔が当たりそうになる。
「俺は観賞用の人形じゃないからな。エルは俺で好きにお世話して良いんだぞ」
アダム様はわたしの頬にキスをしながら、ドレスの入った箱を引き寄せた。
「代わりに俺もエルで着せ替え遊びでもしようかな。人形の時は出来なかったしね」
アダム様には新しい趣味が出来たみたいだ。
「これからは人形はもういらないな。妻を俺の作ったドレスで着飾る方が楽しいと思うんだ。まずはこの赤のドレスを着て、一緒にニコラウス祭のお祝いをしよう」
折角人間に戻ったのに、お人形扱いは変わらない様だ。でも悪くない。
アダム様は届けられた夕ご飯をテーブルに並べて、私にワインの入ったグラスを渡してくれた。
「エル、俺の可愛いお人形さん。ニコラウス祭の奇跡に乾杯」
ここで終わりにしようかと思ったのですが、次のアダム視点のお話で終わりにします。




