2.初めての夜遊び
札幌駅から、徒歩5分。なかなか立地の良い新居だった。賃貸のアパートで部屋は1LDK。3人で住むには少し狭いが、どうせまた父親と、その一緒にいる女は一晩中いない日が多いだろうしあまり関係ないだろう。いたとしても自分がソファーで眠れば良い話だ。父親の隣にはまた見慣れない女がいた。
この女が、今日から私の母親になるらしい。彼女の名前は優花。
年は30代後半くらいだろうか。父親より少し若そうだ。明るめの茶髪のロングに、長い束になっているまつ毛が生えている、夜職でもしてそうな派手な女だ。
「今日からよろしくお願いします。」
「よろしくね、夢愛ちゃん。」
引っ越しの準備が一通り済んだら、また父親と優花は寝室に消えていった。今日は寝室で寝る日みたいだ。もう女の喘ぎ声を聞かされるのにはうんざりだった。
ずっと、自分がどうありたいのかを考え込んでいた。今もまだ考え中だが、以前のように真面目に生きるのはもう疲れた。気分転換に、札幌駅周辺を散歩しに行った。時刻は午後8時過ぎ。商店街など賑やかで、華やかだった。このような都会に来るのはかなり久々だった。今まで畑しかないような、ド田舎に住んでいたので、札幌の風景は新鮮で、今までにない特別な何かを感じた。また、このような遅い時間に外出するのも初めてで、少しスリルがあってワクワクしていた。これまで、部活で帰りが少し遅くなったときもあったが、それでも夜7時過ぎには家にいた。今日だけ夜遊びしている気分で、何か悪いことをしている感じがして、それがまた楽しくて終始浮かれていた。
ショッピングモールで、好きな化粧品やスポーツ用品店を見たりしていた。一通り見て、お腹が空いてきたので近くのコンビニに立ち寄った。
最近控えていた、私の大好きな甘い炭酸ジュースも、控えていたけど今日くらいは飲んでも良いだろうと思い、かごに入れた。好きなお菓子やアイスもかごに入れて、購入した。今日は夜遅くまで遊んでみようかと考えていた。炭酸ジュースの蓋を開けて、プシュッと音が鳴った。その時だった。
遠くから猛烈なバイクのうるさいブオーンヴォンヴォンと音が聞こえてきて、そのバイクは私がいたコンビニにやってきた。バイクは3台やってきて、コンビニで停まった。バイクに乗っていた人たちは、見るからに柄の悪そうなヤンキーたちだった。
ああいうヤンキーを、まじまじと見たのは初めてだった。ああいうのは漫画だけかと思っていたが、実際にもいるものなんだなと思った。私の住んでいたところは稚内で、畑しかないようなド田舎だったのでヤンキーはいなかった。最近のヤンキーは髪色が全員明るいわけではないようだ。黒髪のヤンキーもいた。黒髪ヤンキーは、両耳にピアスを2つ身につけていた。そこにいた金髪のヤンキーが言った。
「うぇーい。酒と煙草買おうぜ。じゃんけんして負けた奴が全部おごりな。最初はグー、じゃんけんぽん!」
と、おごる人をじゃんけんで決めていた。彼らは私と同世代か少し上くらいだろうか。大学生に見えるほど大人っぽくはないし、おそらく高校生だろう。
「お前、やっぱじゃんけん弱いなー。じゃ、龍馬のおごりな。俺の煙草いつものな。酒も。」
「俺のも!ビールなんでもいいから2つ。」
「じゃー俺もそうするわ。」
「うい。わかったよ。買ってくればいいんだろー。」
「じゃ、よろしく!」
黒髪のピアスを身につけた背の高いヤンキーがじゃんけんに負けて、酒と煙草を買わされに行っていた。私はただ傍観していた。
残った2人のヤンキーが、私の方を見るなり、何かひそひそと話していた。何なのだろう?私の顔に何か変なものでもついているのだろうか。
しばらくして、黒髪のヤンキーが袋を持って戻ってきて、ヤンキーたちは地べたに座り、私の方をチラチラと見ながら、酒を飲んで煙草を吸っていた。
「行って来いよ龍馬。酒の勢いで行けるだろ。今しかチャンスねぇぞ。」
「行け行けさっさと。」
「えぇ…もう、どーしよ!じゃあ、一旦行ってみるわ。」
「ないすぅ!!」
何かしばらく話したあと、黒髪のヤンキーが私の方に向かってきた。
「…お姉さんかわいいっすね。何してるんすか?こんなところで。」
話しかけてきた。これは俗に言うナンパというやつだろうか?普段ならナンパなんか絶対応じないと思うが、暇だったし、気持ちも浮かれていたので私は彼の相手をしようと思って、答えた。
「えっと…お腹すいたのでパン食べてます!」
「へぇー。待って、俺もその菓子パン好きだわ。おいしいよね。」
しばらく彼と会話したあと、近くにいた2人のヤンキーもこちらにやってきた。
「ういっす。こんばんわ。どうですか?こいつ。」
こんな形でヤンキーと関わるのは、なんだか新しい世界を見たような気がして、面白かった。ヤンキーといえば怖いイメージしかなかったが、案外彼らは優しくて、話も盛り上がって、面白かった。
彼らと話が盛り上がって、一緒にお酒を飲んでみたりしていた。気がつけば、お酒に酔ってきて、意識が朦朧としてきた。
「夢愛ちゃんはさ〜、龍馬のことどう思う?」
金髪ヤンキーのその言葉を最後に、私は意識を失った。




