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第八話 少しづつ進む日々

次の日。


あの後、医務室のお医者さんから、今日一日は安静にと言われたので、

ベッドで寝ころびながら、ぼんやりと天井を見つめていた。


……退屈だ。


美羽みうから電話がかかってきた。

めずらしい、いつもならLINEなのにと思いながら、通話ボタンを押す。


「もしもし?」


「ななみ? 今、大丈夫?」


「うん。ちょうどヒマだった」


少し間があって、美羽が言った。


「昨日、悠馬ゆうまとプール行ったの?」


「……うん。行った」


美羽はまた少しだけ黙ってから、声を落とした。


「悠馬、肘を故障しちゃったみたいで、ボール投げられなくなって……」


「えっ……」


「監督は、ゆっくり直せば元に戻るって言ってる。

 だから、基礎練や走り込みは続けるようにって言われてるらしいんだけど」


いつも強気の美羽の声が、少しだけ震えていた。


「でも、悠馬……全然、練習に来なくなった」


美羽の声は、涙をこらえているみたいだった。

私は、黙って聞いていた。


「監督、怒っちゃって、もうあいつは使わんとか言ってる」


「……」


「悠馬、今は、プールとか、遊んでいる場合じゃないんだ。

 ななみからも言って。練習、出るようにって……お願い」


「……わかった」


電話を切ったあと、なぜか胸の奥がもやもやしていた。


あの告白が撃沈してから悠馬くんとはしゃべっていない。

昨日も悠馬くんとは一言も話さなかった。

もともと悠馬くんの前では、緊張して、うまく話せないけど。




***




今は、とてもじゃないけど、悠馬くんとはまともにしゃべれそうにない。


でも――美羽の声も、頭の中に残ってる。


どうしたらいいんだろう。

スマホを握ったまま、ベッドの上で丸くなった。


……LINEならできるかも? でも、なんて言えば?


色々、考えた末に、勇気をふり絞ってLINEする。


「美羽から聞いたけど部活行ってないの?」


既読スルーされた。


「ひじ故障したって聞いたけど

 なおるんだよね?」


また、既読スルーされた。


悠馬くんが好きだったマンガを思い出して


「右がダメなら左がある

 メジャーのゴローみたいに」


……わたし、何言ってんだろ?


送ってから、急に恥ずかしくなる。

それから、しばらく待ってみたけど、返事は反って来なかった。


……あれ?ゴローって、左から右だったっけ?


タオルケットにくるまりながらどうでもいいことを考えた。




***




テニス部の練習が再開した。


三年生が引退して、メンバーは一・二年だけ。

新キャプテンになった美幸みゆき先輩が、いつも以上に張り切っていた。


「今年こそ一回戦突破するよー!」


先輩の掛け声に、みんなの返事も元気よく響いた。

私たちも球拾いから、ボール打ち練習が増えた。


練習後、ラケットをしまいながら、コートに一礼して練習場を出た。

校舎が夕陽に照らされてオレンジ色に染まっている。


「疲れたー。もう動けない」


「しかし、美幸先輩、今日も張り切ってたね。あの調子だと練習、もっと厳しくなるかも」


「これからは、試合とか出ないといけなくなるんでしょ。も~っ、まじ、かんべん!」


そう言いながら、真白はふらふらと更衣室に入っていった。



校門のところまで歩くと、颯太そうた先輩が、立っていた。


真白が気づいて、私の顔を見る。


「颯太先輩……ななみに用かな?」


「えっ……」


真白は、少しいたずらっぽく笑ってから言った。


「じゃ、お先に〜」


そう言って、手を振って先に帰ってしまった。


私と颯太先輩だけが、校門の前に残された。


……えっ、ちょっと待って。


なんで、二人っきりにするんだよ~!?

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