第五話 プールメイクで決める
小学校の卒業式以来、真白と一緒にいることが多くなった。
「ねえ、これ、雑誌に載ってたやつじゃない?」
「うん、このチーク、手でのばすと自然だよ」
「え、ブラシいらないの?」
「そう。指先でふわっと」
真白の部屋で、メイクを教えてもらっている。
ちょっとずつ、ちょっとずつできることが増えていくのが楽しくて。
***
中学校入学式。
はじめてのスクールメイク登校。
もちろん、本格的なメイクなんてしてない。
色なしリップ、涙袋にちょんっとだけベージュ。
下地に日焼け止めクリーム。
「先生にバレたらどうしよう」
「大丈夫、これくらいみんなやってるって」
「ナチュラルだからたぶん平気っしょ」
部活は、真白と一緒にテニス部に入る。
入部動機は、一番ユニフォームがかわいかったから。
「ちょっと待ってよ~。ななみ~」
「ほらっ、行くよ。もう周回遅れになっちゃうよ」
真白は、練習前のランニングで、もう音を上げる始末。
……苦手なこともあるんだ。
ちょっとほっこりする。
美羽は、野球続けると言って、野球部に入る。
***
夏休み。
毎日暑くて、とくに予定もなくて、真白の部屋でダラダラしてた。
扇風機の風を浴びながら、クッションを抱えて床に転がってる。
「夏休みもあと半分か~。ななみ、アイスもう一本食べる?」
「……食べる」
もはや返事もめんどうなレベルでけだるかった。
真白は、台所からチューブ型のアイスを二本取ってきて私の顔に冷たいのをぴとっと当ててくる。
「冷た!」
「反応おっそ」
そのとき、スマホがぶるっと鳴った。
画面を見ると、テニス部の美幸先輩からだった。
夏の思い出作りにプール行こうって言うお誘い。男子も何人か来るらしい。
「どうするの?」
「美幸先輩には、いろいろ練習みてもらってるし、断りづらい。」
「……お願い、一緒に行って」
「だるいし、やだ。そうだ、美羽と行けば」
「美羽は夏休み中、ずっと練習だっていってた」
「あっちは強豪だしな。その点、うちのテニス部はゆる部だからいいわー」
「一生のお願い。ねっ」
「しかたないな~」
真白はアイスをくわえながら言った。
***
プールの日。
何着ていこうか昨日からずっと悩んでる。
結局、白のギャザーブラウスとベージュのショートパンツにした。
ふわっとしてて風をはらむ感じがちょっとかわいい。
靴は黒のスポーツサンダル。歩きやすくて、足元だけ少しキリッと見える気がして。
そしてメイク。
まずは、日焼け止め。SPF高めなのが絶対。
顔に塗って、化粧水ミストをシュッとしてティッシュで軽く押さえた。
ちょっとだけ顔がシャキッとする。
リップは、ほんのりピンクのツヤ系。
いつも思うけど、リップ塗るだけで元気がでるから不思議。
まつ毛はいつものようにビューラーでくるんと上げる。
涙袋にはベージュのシャドウを細く入れて指でふわっとぼかす。
眉毛は透明マスカラでしっかり整えた。
やっぱり、眉毛って顔の印象変わる。鏡の前で、もう一度じーっと自分を見る。
……うん。大丈夫。
リュックには、昨日準備した水着。
白のセパレートタイプ。
トップは四角いラインでシンプルだけど、ラベンダーのラインが入ってて、そこがポイント。
下はショートパンツ型で、小さな花柄が散ってる。
店員さんが「今の中学生っぽいバランスです」って言ってくれて、なんかうれしかった。
ラッシュガードにタオル、濡れ髪用のシュシュも入れた。
「よし……出発!」
***
真白と駅前のコンビニ前で待ち合わせ。
真白は黒のショートトップスに、ベージュのロングフレアパンツ。
髪はまとめずに、さらっと下ろしたままで、耳にかかっているだけで、大人っぽさが漂う。
足元は白のスポーツサンダル。
「え……大人っぽ……」
思わず本音が漏れてしまった。
でも真白は、「あは、でしょ?」って得意げに笑った。
市民プールにつくと、先輩たちは既に来ていた。
……悠馬くん。
え? え? ええっ!?
私の頭の中が、一瞬でごちゃごちゃになる。
なんでいるの……っ!?