第四話 きらきらの中で
初めてのメイクの帰り道。
あの時の夕暮れの河川敷のグラウンドの横を通る。
誰もいない。
もし、メイクした今なら悠馬くんは『かわいい』って言ってくれるだろうか?
……もう忘れよう……悠馬くんのことは。
その場を走り去った。
***
「ただいま」
なんか気恥ずかしくて、リビングをさっと通り過ぎようとした。
でも、ママはすぐ気づいたみたい。
ソファから身を乗り出して、じっとこっちを見てくる。
ちょっとだけ顔をそむけた。
「どこでしたの?」
やっぱり、ママには気づかれた。
「……真白にやってもらった……」
「Ravie?」
「違う。真白にやってもらっただけ」
「ふうーん」
全部、見透かされてるみたいだった。
ちょっとだけ勇気出して
「卒業式に……メイクしてもいい? 真白に誘われた……一緒にやろうって」
ママに頼んでみる。
「そうかぁ」
ママ、何だか楽しそうだ。
「ついに、ななみにもそういうときが来たか~。
で、予約いつ行く? 明日?」
……え、早っ。
なんか、拍子抜けしちゃう。
***
卒業式の朝。
ママと一緒に、朝早く起きて Ravie に向かった。
大きな窓の前に、明るく店の名前が出ていて、いつもよりちょっとだけ特別に見えた。
中に入ると、すでに誰かがいる。
「……美羽?」
「……あっ、ななみ」
おたがい、なんかバツが悪い。
ママたちは、「卒業おめでとうございます」とか挨拶を交わしている。
「真白に誘われて……」
なんか言い訳してるみたい。
「わたしも……」
ふたりで、顔を見合わせて小さくくすっと笑った。
奥から真白のお母さんが出てきて、にこにこしながら言った。
「ご卒業おめでとうございます。すみません、お待たせしちゃって」
ママがぺこっとお辞儀する。
「今日はよろしくお願いします。ななみ、ずっと楽しみにしてたみたいで」
***
三人のメイク&着付けが終わる。
真白は、長い髪をゆるくまとめて、白とピンクの髪飾りがきらっと光る。
桜色の着物にグレーのはかま。
赤いリップとサーモンピンクのチークがふわっとしてて、おとなっぽい。
まつ毛はくるんとして、マスカラも少しだけ。
真白ってやっぱりきれいだ。
美羽は、ショートボブで耳がちらっと見えて、金のかんざしがキリッとしてる。
白の着物に深緑のはかま、足元は黒ブーツ。
ローズ系リップとオレンジのチークがすっと入ってて、すごくスタイリッシュ。
目元もブラウンのアイラインで、ビューラーでぱっちり。
笑ったとき、いちばん華やか。
私は、ミディアムショートを外はね風にして、白い小さな花の髪飾り。
アイボリーの着物に紺のはかま。
ベージュのリップにアプリコットのチーク。
まつ毛はビューラーだけ、涙袋にちょっとベージュシャドウ。
あまり派手じゃないけど、自分らしくてちょっと気に入ってる。
***
卒業式。
始まる前は、ちょっとそわそわしてて、なんだか胸の奥がくすぐったい感じだった。
校歌を歌って、卒業証書を受け取って。
先生たちの話は長くてちょっと退屈。
でも、YELLを歌ってると、だんだん感動モードに入ってくる。
涙でメイク取れちゃってないかな、ってちょっと心配になった。
式のあと、校庭はにぎやかだった。
シャッター音が、あちこちでパシャパシャって鳴り続けていた。
みんな、すごくきらきらしてた。
校門にある卒業式の立て札の前で、真白と美羽と並んで写真をとった。
その瞬間だけは、わたしらが一番――そんな気がした。
……って、ちょっと言いすぎかな?
でも、ほんの少しだけそう思った。
***
もし、あのときメイクに出会わなかったら……
悠馬くんにフラれて、落ち込んだまま卒業式を迎えていたはず。
でも、メイクのおかげで、最高の卒業式になった。
そして、次は、もっと最高の中学生活が待っている……ハズ。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
中学校編では、いよいよ、ななみの恋と友情が動き出します。
ご期待ください。