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第三話 最悪の結果

「ネットで予約できるようにするって、どう思う?」


お母さんはすぐに首を振った。


「そういう勧誘、前にもあったのよ。月額とか初期費用とか結構かかるのよね。

 それに、お母さん、パソコン苦手だから……」


「でも、Beauty Agesもやってるって」


「もう、真白の心配することじゃないって言ってるでしょ」


小さなため息とともに、お母さんは店の帳簿に視線を落とした。

私は食い下がる。


「でも、動画だったら、お金かかんないよ。

 自分で撮って編集して、YouTubeにアップするだけだから」


「動画……?」


少しだけ眉をしかめたお母さんの顔に、わずかな戸惑いが浮かぶ。


「お店の紹介動画みたいなの。

 雰囲気とか、浴衣の着付けの様子とかをわかりやすく伝える感じ。

 そうすれば、検索して見てくれる人もいるかもしれないし……」


お母さんは腕を組んで黙り込んだ。


それを見つめながら、言葉を続ける。


「それに、ななみが言ってた。

 Beauty Agesって、ネットで予約できるから便利だって評判なんだって。

 うちも、少しだけそういう風に見せたら、違うかもって……」


その言葉に、お母さんはようやく目を上げた。


「……じゃあ、作ってみなさい。どんなものか見てから、判断するわ」


「やった!」


ななみに頼んで、一緒に動画を作ることにした。




***




「宣伝動画、やっとできた!」


そう言ってスマホの画面をヒロくんとお母さんに向けた。

緊張から、手が少し震えている。


タイトルの後、店の前でぎこちなく挨拶する私の映像。

初めに、お店の中のパノラマ動画

続いて、ヒロくんがお客さんと楽しそうに会話しながらカットしているところ。

画面の下に表示されたテロップは、『イケメン美容師によるこだわりカット』の文字。 


「……えっ、イケメンって!」


ヒロくんが眉を寄せて、画面を指さした。


「大丈夫、このぐらいは盛らないと」


――実際、イケメンだと思う。私的には……


それから、私のメイク動画。

メイク系ユーチューバーさんのように、うまくしゃべりながらは難しい。

ななみにモデルを頼んだが、絶対ムリ、というので結局、切れ切れの動画にした。

そして、最後にまた私の挨拶。

最後だけは、ななみにも一緒に映ってもらって、なんとか形に仕上がった。


お母さんは腕を組んで、画面をじっと見つめている。


「……こんなので、ほんとにお客さんが来るの?」


その言葉に、少し胸が痛んだ。

だけど、ヒロくんが横で言ってくれた。


「折角、真白ちゃんが頑張ったんだし、やってみましょうよ! 玲子さん。

 ダメなら消せばいいし、やらないよりはマシですよ」 


……やった、ヒロくんが応援してくれた。


お母さんはしばらく黙っていたけど、やがて小さく頷いた。


「……じゃあ、やってみようか」




***




動画をアップしてから、毎日のようにスマホを確認していた。


“Ravie PR動画”

再生回数:12回。


「……これって、マジ終わってるよね」


部屋でスマホを見つめながら、思わずつぶやいた。

ななみが隣でため息をつく 


「現実って厳しい……ってことで、慰め合う?」


「そうしよう。とりあえずアイスでも食べようよ」


それから、私は動画の再生回数を見るのをやめた。

見たって増えないし、落ち込むだけだ。




数日後。

学校帰りに店へ寄ったとき、怒鳴り声が聞こえた。


「写真なんて、勝手に使うなんてありえませんよ!」


店の中では、お客さんが顔を真っ赤にして怒っていた。

お母さんとヒロくんが、平謝りしていた。


「申し訳ございません。動画は、すぐに削除いたします」


お母さんの声が震えていた。

まさかと思って、スマホを開いた。

自分でアップしたPR動画。

コメント欄には、冷たい文字が並んでいた。


「この店はお客のプライバシーを晒してる」


「子供を使って宣伝とか引くんだけど」


「JCのメイク動画萌♡」


……


 

指が震えて、画面をまともにスクロールできない。

心臓の奥が、ざらざらした音を立てる。


なんで――なんでこんなことに。


震える指で、どうにか動画を削除する画面までたどり着く。

動画は、すぐに消した。


スマホを持ったまま、店のカウンターに駆け寄った。


「お母さん……ごめんなさいっ……!」


自分でも驚くほどの泣き声だった。

涙が止まらない。


お母さんは驚いた顔をしたけど、すぐに私の肩に手を置いて、慰めるように言った。


「真白だけが悪いじゃないよ。

 わたしが許可したんだから。わたしが甘かったわ。

 お客さんには、改めて、お詫びに伺わなきゃ」


その言葉でまた、胸がきゅうっと痛くなる。

だって、私が勝手に張り切って、盛り上がって――それで、お店どころか、お客さんにまで迷惑をかけてしまった……。


横にいたヒロくんも、ゆっくり言葉を出してくれた。


「僕もネットのこと、ちゃんとわかってなくて、それでも勧めたから……。

 真白ちゃんは、一生懸命やっただけ。

 一番悪いのは僕。僕も一緒に謝りに行きます」


その声を聞いた瞬間、涙がまたつるんと零れた。


部屋に戻って、ベッドに顔をうずめる。


誰も責めてこなかった。

それが、余計につらかった。


悔しい……。わたしって何もできない。


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