第二話 Ravieの危機
お風呂から出て、濡れた髪をタオルで拭きながらキッチンに行く。
冷蔵庫からジュースを取り出して、自分の部屋に戻ろうとしたとき、お店の方からお母さんの声が聞こえた。
ちょっと疲れたような、ため息混じりのトーンだった。
「今年は、浴衣のレンタルのお客さん、まだ、一人しかいないのよね……
去年はいっぱいだったので着付けの応援も呼んだけど、今年はもう私だけでいいかな」
足を止めて、耳を澄ませる。
ヒロくんの声が続いた。
「やっぱり、駅前のBeauty Agesの影響ですかね。あそこ、最近ずいぶん流行ってますよね」
「そうかもね。安くて速いって評判みたい。うちのお客さんもかなり、あっちに流れてるみたい」
「まあ、あっちは大手ですら。うちにはうちの良さがありますよ」
「この分だと、今月も厳しいな」
その言葉に、胸がちくっとした。
「……えっ、うちってやばいの?」
思わず口に出して、店に続くドアを開けた。
ふたりが振り向く間に、私は真っすぐ割り込んだ。
「ちょっと、真白。立ち聞きなんて、お行儀悪いわよ」
「それより、ほんとにお客さん減ってるの?
わたし、浴衣のこと、友達に声かけてみようか?」
お母さんが眉をひそめながら言う。
「そんな、真白が心配することじゃないわよ」
「声かけるくらい、別にいいじゃん……」
……何か、納得いかない。
けど、お母さんは優しく首を振った。
「とにかく、子どもが心配するようなことじゃないの。
それより、そんな格好でウロウロしてたら風邪ひくよ」
えっ、と見下ろすと、自分がまだパジャマのままで、髪もタオルのままだった。
「……うわっ!」
思わず叫んで、店から引っ込んで階段を一気に駆け上がった。
「そんな急に上がったら、階段踏み外すわよ!」
部屋のベッドで、ふかふかの枕に顔をうずめて、ひと呼吸ついてから、ぼそっとつぶやいた。
「お客さんかぁ……」
***
休日の午後の自宅。
「真白、なんか悩んでる?」
ベッドに寝転がりながら、ため息ばかりつく私を心配して、同級生のななみが声をかけてきた。
少し間を置いてから、顔をななみの方に向けた。
「……ななみ、Beauty Agesって、知ってる?」
「うん。駅前にできた美容室でしょ? ママがさ、安くて速いからいいって言ってた。――あっ」
言いかけてから、ななみは慌てて手を振る。
「違う違う、ごめん! うちはずっとRavieだよ。ママも私も、Ravieじゃないとって言ってる!」
「ふーん……」
枕に顔を沈め、再びため息をついた。
そのまま、また黙り込んでしまった私に、ななみが慎重に問いかける。
「……そのBeauty Agesが、どうかしたの?」
しばらく迷ってから、ぽつりと答えた。
「それができてから、うちのお客さんが減ってるらしいの。それで、お客さん、増やすにはどうしたらいいか考えてた」
「……ママが言ってんだけど、ネットで予約できるから便利なんだって、Beauty Ages。
真白のところもネットで宣伝とか……、真白って、パソコンとか得意だし……」
「……」
「なんか、そういうのやってみるのはどうかな?」
励ますように言ったあと、ななみは気まずそうな顔をしていた。




