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第十五話 『好き』って言われたい

中学校に入って二度目の夏休み。


颯太そうた先輩との別れから、一か月とちょっとが過ぎた。

あの日のことを思い出すと、まだ胸が少し痛むけれど、ようやく気持ちの整理もついてきた。


外は真夏の青空。

でも、私は、やることがなく、家で冷えた麦茶を飲みながらボーッとしていた。


真白ましろは、最近、Ravieの手伝いに夢中だ。

美容コースのある高校を目指してるって言っていた。

自分の好きなことを見つけて、まっすぐ進んでる真白がうらやましい。


わたしは、何になりたいんだろう。

そんなことをぼんやり考えながら、スマホを見ているとLINEが届いた。


――悠馬ゆうまくんから。めずらしい。


画面には、短いメッセージ。


「明日、地区予選の決勝戦

 勝ったら大事な告白がある」


読んだ瞬間、眉がぴくっと動いた。


「告白って……もう言ってるじゃん」


でも、そのあとすぐに、なんだか、ふっと笑えた。


……まあ、大目に見てやるか。


地区予選の決勝。悠馬くん、勝てるといいな。




***




試合当日の朝。


鏡の前で、そっと日焼け止めクリームを塗る。

日差しが強くなるのはわかっていたけれど、それだけじゃなくて、肌に触れる冷たい感触が、少しだけ安心をくれるみたいで好き。


そして、薬用の透明リップ。

野球をしていたころと同じリップなのに、今は、それを塗ると、少しだけ気持ちが引き締まって不思議と元気が出る。


メイクはそれだけ。


なぜだか、悠馬ゆうまくんに会うのには、これが一番ふさわしいと思った。

背伸びしなくていいような気がした。


ふと、一緒に野球の練習をしていたころの自分を思い出す。

すっぴんで、大声を上げて、汗にまみれて泥だらけの私。

あの頃と比べ、変わったのか、戻ったのか、それはわからないけれど。


試合会場に着くと、入り口の少し先に美羽みうが立っていた。


「……ひさしぶり」


「うん、……元気だった?」


美羽とは、誕生日以来、まともに会っていなかった。

やっぱり、気まずさがどうしても漂ってしまう。

会場係の人に声をかけられて、応援席へと誘導される。


席の中央あたりに座ると、すぐ前方のフェンス沿いに、きらきらした髪飾りや笑顔が目立つ女子たちが陣取っている。

隣で美羽がつぶやいた。


「……あれ、全部、悠馬のファンだよ」


「ふーん、結構モテるんだ、悠馬くんって」


悠馬くんが野球やっていることろを久しぶりに見た。


――なんか、大人っぽくなっている。


試合が始まる。

炎天下のグラウンドに白いユニフォームが走る。

悠馬くんは三番バッターで、ピッチャーだった。


ピンチとチャンスが何度も入れ替わって、思わず声を上げる。

美羽も私も、気がつけば肩を乗り出していた。


「がんばれ……!ナイス!」

「あと一本……いける、悠馬!」


大きな声をあげ、拳を握って応援していた。

気がつけば、少年野球をしていたあの頃みたいに美羽と私は並んで同じ方向を見ていた。


最後の一点が入り、試合が決まったとき――


「やった……勝った!!」


ふたりとも立ち上がって、思わず抱き合っていた。




***




応援席を出ると、通路の向こうに悠馬くんが立っていた。

泥だらけのユニフォーム、額には土と汗が混じっている。


美羽みうは、耳元で「頑張ってね」とささやくと、そのまま小走りで出口に向かっていく。


急に、胸が高鳴る。

静かに鼓動が大きくなっていく。


悠馬くんが、一歩だけ近づいて、

ほとんど聞こえないくらいの声で言った。


「……好きだ」


「え?」と聞き返そうとした瞬間――

今度ははっきりと、大きな声で言う。


「ななみが好きだ!」


その声に、まわりの何人かが振り返った。


張りつめていた気持ちがほどけて、胸の奥に光が差しこんだようだった。


――わたしが、本当に言われたかった言葉はこれだったんだ。


回りのすべてが一瞬止まった。でも、私と悠馬くんの間にだけは、何かが動いた。


「うん。わたしも、大好き!!」


そう言って、悠馬くんに飛びついた。


(了)


中学校編はこれで終わりです。

ここまで読んで下さった方、ありがとうございます。

次からが、真白を主人公にした物語を書きます。

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